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他の人とより深いつながりを作れるコミュニケーションの仕方を教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、The science behind dramatically better conversations (会話が劇的によくなる科学)
ジャーナリストの Charles Duhigg(チャールズ・デュヒッグ)さんのトークです。
収録は2024年の3月、動画の長さは13分。動画のあとに抄訳を書きます。
劇的に会話がよくなる
☆TEDが初耳の方はこちらを一読ください⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
わかりやすく活気があるプレゼンです。
ちょっとした実験
皆さん、ある実験に参加してください。
この会場を出たら、バスや街角で、知らない人に次の質問をしてほしいんです。
「最後に人前で泣いたのはいつですか?」
この実験にワクワクしている人っていますか? いませんよね。
噛み合わない会話
数年前、妻と私はちょっとよくない習慣に陥っていました。結婚して20年たっていましたが、私はニューヨーク・タイムズのリポーターとして働く長い1日の仕事から帰ると、その日のできごとについて、妻に不平を言っていたんです。
がんばっているのに、みんなに十分評価されていないとか。
妻は理性的な助言をしてくれました。「ボスとランチに行って、お互いにもっとよく知り合ったら?」みたいな助言です。
でも、妻の言葉を聞いたら、私はますます不機嫌になりました。
「どうして、僕の味方になってくれないの? 僕の代わりに怒ってくれるべきじゃないのか?」というように。
すると妻も不機嫌になります。親身になってアドバイスしたのに、私に攻撃されたのですから。
いい状況ではありませんでした。皆さんもこんな経験ありますか?
会話には3種類ある
そこで、コミュニケーションを研究している人たちに会いに行き、「なぜ、私はこんなパターンに陥ってしまうんでしょう?」と聞いてみたいんです。
どうやら、私は間違ったことをしていました。
神経の画像やデータを収集できるようになった現代は、コミュニケーションの解明については黄金の時代です。
研究者によれば、私たちはいつもひとつのことを話していると思い込んでいます。たとえば、その日のこと、子供の成績、夕食の献立など。
でも実際は、それぞれの議論には、たくさんの異なった会話が含まれています。
私たちがする会話は以下の3つのカテゴリーのどれかにあてはまります。
1)実用的な会話:何を話しているか。
2)感情的な会話:自分がどんな気分なのか。話し手のゴールは、自分の気持ちをシェアすることで、問題を解決したいわけではない。共感や同情を求めている。
3)社会的な会話:自分が誰なのか、自分にとって重要な社会的アイデンティティ、お互いがどんな関係にあるのか、自分が社会とどんなふうに関係しているのか。
その瞬間、お互いが違う種類の会話をしていたら、つながることはできないと研究者は言っています。
マッチングの法則とは?
実際、私の家で起きていたのが互いに違う種類の会話をしていたことです。
私は感情的な会話をしていましたが、妻は、実用的な会話として返事をしていました。
互いにまともに会話をしていましたが、同じときに同じ会話をしていなかったので、うまくコニュニケーションが取れなかったのです。
神経学と心理学の分野では、この原則はとても重要で、「マッチングの法則」として知られています。
いいコミュニケーションをするためには、そのときの会話の種類を理解して、お互いに合わせることが重要なんです。
では、どうやったらそうできるでしょうか?
教師はマッチングを学んでいる
実はこの法則を、学校の先生は学んでいます。
教師なら、生徒が質問にやってくるとき、どう答えるのがベストなのか、経験を積むうちに気づきます。
「助けてほしいの?」:実用的な会話
「ハグしてほしいの?」:感情的な会話
「聞いてほしいの?」:社会的な会話
このような質問を生徒にすれば、生徒は答えます。
でも、実生活でこうするのは簡単ではありません。
職場で、誰かに「ハグしてほしいの?」なんて聞いたら、人事の人に告げ口されるかもしれません。
深い質問をしよう
でも、私たちのようなふつうの人でもできる方法があります。「深い質問(deep question)」をするのです。
深い質問は、相手の価値観や信念、経験などを引き出す質問です。こう聞くと少し怖いでしょうが、やってみるとずっと簡単ですよ。
たとえば、誰かに、「どこで働いていますか?」と聞く代わりに、「仕事のどんなところが好きですか?」と聞きます。
「どこの高校を出たの?」と聞く代わりに、「高校生活はどんなだった? 何を学んだの? そこできみはどんなふうに変わったの?」と聞けばいいんです。
言い換えれば、誰かの人生の事実を聞く代わりに、自分の人生についてどんなふうに感じているか聞くべきなのです。
そうすれば、聞かれた人は、自分がどんな人間なのか、開示することになります。
何を求めているか、自分が人にどう見てほしいか、自分が相手をどんなふうに見たいか、何が一番重要か、といったことを話してくれるのです。
このような質問をされると、相手に弱い自分を見せることになるし、質問したほうも、同様ですから、お互いにつながることができると研究からわかっています。
医者のエダイ先生の場合
このロジックを説明するために、べハー・エダイ先生の話をしましょう。
エダイ先生は、ニューヨーク市のがんの外科医です。専門は前立腺がんで、前立腺からがんの腫瘍を摘出します。
毎日、患者が医学的なアドバイスを求めて、先生のオフィスにやってきますが、彼は、「手術しないほうがいいですよ」と答えるんです。
前立腺は排尿と性機能を制御する神経のすぐそばにあるので、どんな手術も危険です。
しかも、前立腺がんの大半は、とてもゆっくり進行します。実際、現存するがんの中で、もっとも成長が遅いがんです。
年老いた人が前立腺がんになると、がんで死ぬ前に寿命で亡くなると言われています。
だからエダイ先生は、患者にこう言います。
「何もしないほうがいいと思いますよ。手術の代わりにアクティブ・サーヴェイランス(active surveillance)をしましょう。
6ヶ月ごとに血液サンプルを取り、2年ごとに生体検査をし、腫瘍の大きさが変わっているようなら、MRI検査をして、そのうで、必要なら手術をすればいいんです。
放射線治療も手術も今のところ必要ありません。」
患者はこのアドバイスを聞き、家に戻って、奥さんと話し合いをし、翌日、「手術をしてほしい、できるだけ早く腫瘍を摘出してほしい」と言います。
エダイ先生にしてみれば、びっくりするような反応です。
専門家の自分が手術をする必要がないと言っているのですから。
同じことが何度も起きるので、先生は、患者に問題があるのではなく、自分が何か間違っていることをしていると考えるようになりました。
医療の現場での深い質問
そこでエダイ先生は、ハーバードビジネススクールの教授たちに会って、アドバイスを求めました。
「そもそも、会話の始め方から間違っている。あなたは、患者が、アドバイスや医療的解決を望んでやってくると思い込んでいます。
でもそうとは限りません。患者に何も質問していないじゃないですか。まず質問することから始めるべきなんです」。
そう、教授たちは言いました。
2週間後、エダイ先生のオフィスに、前立腺がんの診断を受けたばかりの62歳の男性が初めてやってきました。
エダイ先生は助言をする代わりに、「前立腺がんの診断は、あなたにとってどんな意味を持ちますか?」という質問から始めました。
患者は、自分が17歳のとき父親が亡くなりとてもつらかったこと、母親が大きなショックを受けたことを話しました。
それから彼は、職場の若い人たちが、自分のがんを知ったら、自分を違う目で見るのではないかと心配している話をしました。
まだ、20年~30年は働けるのに、自分のことを墓場に追いやるのではないかと。
それから自分の孫のことや、気候変動を始めとしたいろいろなできごとのせいで、孫たちの未来に関する心配も話題にしました。
エダイ先生は、この患者ががんの話をすると思っていました。少なくとも、死ぬことや痛みなどについて。でも、そんな話はひとつも出てきませんでした。
最後に、エダイ先生は気づいたのです。自分が深い質問をしたからこの男性が感情にかかわる話をしている。自分がどう感じているかを話したい、ハグを求めているのだと。
エダイ先生は、患者にハグこそしませんでしたが、言葉で同じことをしました。先生は自分の父親も病気になり、自分も父もとても怖かったけれど、家族は以前よりずっと近づくことができたと8分間、話をしました。
その後、エダイ先生は、「よければ、治療について話をしたいのですが、いいですか?」と切り出し、実用的な会話をしました。
さらに7分経って、その患者はアクティブ・サーヴェイランスをすることに決めたのです。
先生がこのアプローチを取るようになってから、現在、以前と比べてずっと多くの患者が、アクティブ・サーヴェイランスを選択しています。
日常の会話にも応用できる
生死にかかわるような会話でなくても、ふだんの何気ない会話で、深い質問をすれば、より深く、相手とつながることができます。
だから、最初に、「最後に人前で泣いたのはいつ?」という質問をする実験を紹介したんです。
心理学者のニコラス・エプリーは、人々にこの質問をしてもらう実験をしました。皆、やりたがりませんでしたが、実験に参加しているからやるしかありませんでした。
エプリーが「やってみてどうでしたか?」と聞いたところ、皆、「会話をした相手とよりつながることができた。お互いにすごく思いやっているように感じられた。相手は私の言うことをよく聞いてくれたと感じたし、自分も相手の言葉をしっかり聞けた」と伝えました。
ほとんど全員が、この質問から始めた会話が、ここ最近自分がした会話の中で、一番よかったと言いました。
「この人と組むことができてよかった。私に最適な相手だったから」とも言いましたが、実際は、相手が他人であることと、正しい質問から始めたからうまくいったのです。
なぜ、お互いに深くつながることができるのか?
深い質問をしたからです。
深い質問から始めれば、本当の気持ちを引き出せます。
深い質物をしてみると、今、3つの会話のうちのどの会話をしているか、相手が今、何を求めているのかわかります。
だからこそ、お互いにつながれるのです。
今私たちは分断の時代に生きています。私たちは会話の仕方を忘れてしまいました。
でも、スーパーコミュニケーターと呼ばれる人たちもいます。彼らは特別な人たちではなく、相手とつながれるスキルを学んだ人たちです。
私たち全員がそのスキルを学ぶことができます。
素晴らしい会話を経験すると、脳はまたそんな会話をしようとします。
だから、きょうこの会場から出たら、知らない人に向かって、最後に人前で泣いたのはいつだったか話してほしいのです。どんなふうに会話ができたか私に教えてください。
//// 抄訳ここまで ////
コミュニケーションに関する他のプレゼン
5つの椅子と5つの選択、もっと上手にコミュニケーションをとる方法(TED)
本当のことを話せば、ほかの人の本当の姿にふれることができる(TED)
聞き上手になる。よく聞くための5つの方法・ジュリアン・トレジャー(TED)
人に話を聞いてもらいたいなら必見。人を惹きつける話し方(TED)
他人とうまく会話する10の方法:セレステ・ヘッドリー(TED)
関連図書
コミュニケーションがテーマのチャールズ・デュヒッグの著書です。
こちらは、ベストセラーになった『習慣の力』。
彼の習慣に関するプレゼンはこちらで紹介していますので、よければご覧ください⇒習慣のループを知れば、どんな習慣も変えることができる(TED)
ニコラス・エプリーの本はこちら。
オープンエンドの質問をする
今回のプレゼンの内容を3行でまとめると、
- 誰かと会話をするときは、会話の種類(助ける、ハグする、聞く)を合わせると充実した会話になる。
-「最後に人前で泣いたのはいつ?」といった深い質問をすると、その相手とよりつながることができる。
- 事実を聞くのではなく、どう感じているのかオープンエンドの質問をすると、コミュニケーションの質がよくなる。
こうなります。
オープンエンドの質問とは、答えが「はい」や「いいえ」といった短い言葉で終わらず、相手が自由に考えを表現できるような質問のことです。
このような質問は、相手に考えや気持ちをより深く語ってもらうために効果的です。
ただ、「最後に人前で泣いたのはいつ?」と聞かれて、答える気になる人とならない人がいると思うので、知らない人にするのはいいけれど、知っている人(家族とか)が相手だと思ったような効果が得られないかもしれません。
それでも、ただ事実を聞くだけではなく、「どう思ったの?」という方向に質問したほうが、会話が続きます。
実家の断捨離を手伝いたいと思っているけれど、いつも、親と会話が続かないときは、一方的に、「ものを捨てたほうがいいよ、手伝うよ」と言うのではなく、「深い質問」や「オープンエンドの質問」も混ぜてみてください。
親が本当に気になっていることや心配していることを引き出すためには、どんな質問が効果的か、考えてみるといいかもしれません。
もしかしたら親の本音が引き出せるかもしれないし、これまでとは違ったコミュニケーションができるようになります。