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子供や親など家族とうまくいっていない人、家族といると疲れる人の参考になるTEDトークを紹介します。
タイトルは、How to deal with toxic family relationships (有害な家族関係とどう付き合うべきか?)。
プレゼンターは、瞑想やヨガ、シャーマニックヒーリングを人に教えているJohnson Chong (ジョンソン・チョン)さんです。
と言っても、このプレゼンはスピリチャルな部分は全然なくて、きわめて論理的な内容です。チョンさん自身が、親の期待に応えることができず、苦しんだ体験があり、どうやって解決したのか話しています。
有害な家族関係:TEDの説明
Is blood really thicker than water? Is being family enough to outweigh the toxicity of an unhealthy relationship?
Over 1 in 4 American adults have experienced family estrangement, be it from one, or both parents, a sibling or a relative. The main causes are emotional abuse, personality and value clashes, mismatched expectations and possible physical/sexual trauma.
Johnson Chong poses the idea that toxic family relationships are similar to unspoken one-sided contracts that are full of expectations and obligations that keep us from unapologetically living the life we deserve to live. He asks the question, “if we can negotiate legal contracts, then why not toxic family ones?”
血は本当に水より濃いのでしょうか? 家族でいることは、不健全な関係の毒にさらされるより大事なことなのでしょうか?
成人したアメリカ人の4人に1人以上が、家族と疎遠になる経験をしています。親の1人から、または、両親、兄弟、親戚から。
そのおもな理由は、精神的な虐待、性格や価値観の不一致、期待の不一致、身体的、性的トラウマです。
ジョンソン・チョンは、有害な家族関係は、期待や義務でいっぱいの、暗黙の一方的な契約に似ていると言います。その契約は、私たちが生きるに値する人生を生きるのを強く阻んでいます。
彼はこう問います。「法的契約に対して交渉できるなら、有害な家族の契約だってそうできるのではないか?」と。
収録は2022年の6月。動画の長さは15分。字幕はありません。動画のあとに抄訳を書きます。
このプレゼンはまだ新しいので自動生成の英語字幕しかありませんが、とてもいい内容だから、そのうち日本語の字幕もつくと思います。
母にピアノを習わされた
[チョンさんが登場してお辞儀をし、ピアノの前に座る]
皆さん、私がピアノを弾くと思っていますね?
私はクラシックピアノのトレーニングを受けたのでそう思うのは理にかなっています。
でも、今日はピアノを弾く代わりに、話をさせてください。
私にピアノを習うように言ったのは母です。
私がピアノをマスターして、自宅でピアノ教室を開く。私が生徒にピアノを教えているあいだに、母が私の子供の世話をする。
母が想像していたのは、そんな未来です。
ただ、問題がありました。私はゲイで、子供は欲しくないし、何より、ピアノを弾くのが大嫌いなんです。
家庭内の暗黙の契約
こんなふうに、どんな家庭にも、暗黙の契約があります。
文書の契約とは違い、この契約は、期待や義務から成っています。
何をいつ、どうやってするか。
期待に応え、義務を果たすと、愛されて受け入れられます。少なくとも理論上は。
現実には、家庭の契約は、たいてい一方的な搾取です。時には、絶望しか生みません。
[トランスジェンダーの女性の言葉]
「父は私を息子とは認めてくれなかったのですが、娘としても認めなかったのです。12歳のときから父と口をきいていません。
自分がトランスだとカミングアウトしたとき、母に、私の新しい名前であるヴィッキーや、ヴィッキーの人生を尊重できるか聞いてみました。
拒否されました。家族の一員でいたかったけれど、完全に決裂しました」。
私やヴィッキーの話は珍しくありません。
家族と疎遠になることは珍しくない
成人したアメリカ人の4人に1人が、家族と疎遠になっています。親兄弟や親戚と行き来がありません。
たまにはメールするとか、感謝祭に食事するなんていうのもなく、絶縁状態です。
そのおもな原因は、精神的な虐待、性格や価値観が合わないこと、一方的な期待、身体や性的なトラウマ。
こんな話をすると、「でも、あなたの唯一の家族じゃないの」なんて反応が返ってくるものですが、そこで終わらせるべきでしょうか?
自分を抑え込むか、自分を引き裂くしかないのでしょうか?
それとも他に道があるのでしょうか? 有害な家族関係に対処するもっと健全な方法が。
その答えは、家族の契約を見直して、関係者全員で見直すことにあると思います。
契約とは?
契約と言えば、数年前、トランポリンパークに行ったとき、「施設の器具の使用中に怪我をしても、訴えません」という契約にサインするよう言われました。
で、この契約書にサインした10分後に怪我をして、訴えたくなりました。
内容がよくわかっていない契約書にサインをすることってよくありますよね。皆、契約のことがよくわかっていないのです。
私は弁護士ではないから、弁護士の友達に、ちゃんとした契約書について聞いてみました。
[弁護士の説明]
「法的に効力のある契約に必要なのは、5つの要素だけです。
1.申し出:すること/しないことに対する同意
2.条件の受諾
3.対価:お互いが約束した金銭的、またはそれに変わる価値
4.相互関係:すべての関係者が、契約に書かれた義務を果たすことを理解していること
5.資格:全員が法的に契約できる年齢であり、ふさわしい精神状態であること
家族の契約
こうしてみると、法的な契約と家族の契約はよく似ています。
ただ、申し出はたいてい一方的だから、同意する側は、圧力を受けて、いやいや行います。
対価も平等とは言えません。たいてい、年上の家族が、何が平等なのか決めてしまいます。
両者が自由に契約するわけでもないし、同意する側はたいてい未成年です。
その契約はこんなふうに展開されます。
– そのおもちゃで遊ぶなら、もっとピアノの練習をしなきゃね。
– ピアノを習う月謝が欲しいなら、お手伝いをしなきゃだめよ。
– この家に済む限りは、オールAを取らなければならない。
生まれた環境によっては、さらに規約が増えます。
私のように、典型的な中国人の家庭に生まれた場合は、父親に従う、母親を敬う、年老いた両親の世話をする、祖先をあがめる、男の跡継ぎを生む、などなど。
私たちは、この世界に借金した状態で生まれて、一生をかけてその借金を返していくのです。まるで学費ローンのように。
両親の私に対する期待
法的契約を交渉して改定できるなら、家庭の契約だってそうできますよね?
私の両親はフリーダムスイマーです。中国から香港まで、海を泳いで渡りました。非合法の船に乗るお金がなかったから。もしくは、共産党の支配から逃れるのに失敗したから。
両親は、政治的な土地を所有していた一族でした。祖父母は国家の敵として殺されました。
香港に渡った両親は、そこから難民としてアメリカに行き、新しい国で生きていくのに苦労しました。言葉を覚え、新しい生活様式に適応しながら。
私はニューヨーク市で生まれ、家では広東語を話し、保育園で英語を学びました。両親に比べれば、私の人生のスタートはとても楽なものでした。
だから両親があれこれ私に期待するのも無理はありません。
私が、そんな両親の期待に応えられない自分をふがいなく感じるのも当然です。
ゲイであることは、私の家庭の契約に反しています。孫を作れないし、私が生きられるように、自分の命を犠牲にした先祖の意志を汚します。
だから罪悪感を感じました。
自分自身を殺していたけれど
若い頃は、両親をがっかりさせたくなくて、本当の自分は見せませんでした。自分の秘密は墓まで持っていこうと考えていました。
外国に逃げようと思ったこともあります。
でも、状況はよくなりませんでした。私はずっと家族の契約に拘束されていたから。
過去には戻れないけれど、これ以上隠すのもいやでした。
そんなとき、対決するという3つ目の道に気づきました。
机の上に契約書を置き、自分にはできないことを指摘し、交渉して新しい契約を結ぶのです。
リスクは大きいけれど、やらねばならないと思いました。
家族の契約の再交渉
交渉にあたって5つのステップを考えました。
1.相手の言うことを聞き、認める
認めるのは同意することではありません。相手の話を聞き、自分が聞いていることを相手に知らせます。
父が私に、「息子よ、おまえはゲイでスピリチュアリティを教えている。おまえは偽善者だ」と言ったとき、私は父の言葉を繰り返しました。
「お父さん、私はあなたの言うことを聞いています。私がゲイでスピリチャリティを教えているから、お父さんは私を偽善者だと思っているんですよね」。
こう言えば、父は、私が父の言ったことを理解していることがわかり、私の口から自分が言った言葉を聞くことができます。
中立的にこれを行えば、共感を作り出すことができ、次のステップに進む準備ができます。
2.自分の本当の気持ちを話す
「私は愛する者しか愛せません。お父さんがそんなふうに感じているのを聞くのは悲しいことです」。
本当に感じていることをはっきり伝えます。すると相手は、自分の言葉があなたにどんな影響を与えるのか、理解できます。
3.相手と自分のストーリーをつなげる
非難することなく、相手の立場を理解していることを伝え、自分の立場を明らかにします。
「お父さん、お父さんにとって、私がこの家族の伝統を尊重し、私が祖先をうやまうことはとても大事なことなんですよね。それはわかっているし、私は祖先に感謝しています。命からがらアメリカに来たお父さんにも感謝しています。
でも自分がゲイである事実を変えることはできません。お父さんを傷つけて申し訳ないけれど、自分がそうでない者のふりをすることはできません」。
4.自分が求めていることを話す
「たとえお父さんが、私と意見が違っても、私はお父さんにサポートしてほしいし、お父さんさえよければ、お父さんの人生の一部になりたいのです」。
5.選択肢を与える
最後に選択肢を与えて、相手に決めてもらいます。
「お父さんはどう思いますか?」
不健全な家庭で悩んでいる人は、以上の5つのステップを使ってみてください。
私がゲイであることを例にあげましたが、このステップは、何を再交渉するときにも使えます。
交渉から得られるもの
交渉しても、いつもハッピーエンドで終わるとは限りません。
父に、ありのままの私を受け入れてくれるかどうか聞いたときの答えは「ノー」でした。
はっきりした答えが得られれば、不健全な家族関係から、離れる道を取るほうに進むことができます。
何があっても自分を支えてくれると思っていた家族を失ったことを悲しむプロセスにも入れます。
拒絶されることが、どんなにつらくても、少なくとも自分が力を尽くしたことがわかっているし、「もしも、こうしたらどうなるだろう」という心配ごとから解放されます。
家族と別れるからといって楽しかった思い出まで消してしまうことはありません。
素のあなたを支えてくれない人と縁を切るのは、勇気がいることです。
でもその勇気を出せば、もう何ものにも邪魔されず自分自身を生きることができます。
私は私自身を選んだ
[トランスジェンダーの女性の言葉]
「両親と決裂することはどうしても必要だったんです。そうしなければ、自分自身を生きることはできなかったでしょう。
両親に私を選んでもらいたいと思っていたけれど、親はそうしませんでした。
だから私は自分で自分を選ぶことを学んだのです」。
私も自分自身を選ぶことを学びました。
母とは、関係を変えて、以前と違う形でコミュニケーションを始めました。
父はと言うと…。父は、ピアノと似ています。もう演奏したいとは思いません。
両親と再交渉したり決裂したりしても、ハッピーエンドの保障はありません。でも、勇気を得られるし、新しいレベルの自尊心が生まれます。
自分自身を生きる
私たちは生涯を通じて、ほかの人とどんな関係を結ぶか、いつも交渉して変えています。でも、自分が誰であるかは変えられません。
あなたは、自分自身を生きますか?
それとも、話題にするのを恐れている暗黙の家族の契約に従って生きますか?
あなたがどんな環境にいようとも、契約書を隅々まで読んでください。
そして、この契約が、自分が人間として成長していくのに、利益があるのかどうか、正直に考えてください。
もう自分のためにならない、暗黙の家族の契約を廃止する準備ができていますか?
あなたも、あなたの家族もその気があるなら、あなたはもっと満たされた健全な人間関係を築くことができます。
家族が反対したとしても、あなたはベストを尽くしたのです。後悔しないで、今後は、自分自身の人生を生きるだけです。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
lopsided かたよった
The stakes are high. 賭け金が高い、賭けの代償が大きい、リスクが高い
instinctual 本能的な、直感的な
チョンさんの著書です。
概要を読むと、自分自身でいることが難しかった若い頃から、本当の自分になるまでのメモワールのようです。
自分らしく生きるヒント
女の子に勇気を持つことを教えよう。完璧であることではなく(TED)
批判や心配に負けず、レジリアンス(立ち直る力)を高める方法(TED)
拒絶された、傷つけられた、人生って不公平。そんな気持ちを克服する方法(TED)
本当のことを話せば、ほかの人の本当の姿にふれることができる(TED)
本当の自分を出す
親とうまくいっていないことが、大きなストレスになってる人や、そのストレスが買い物を増やして汚部屋になっている人から、たまに相談をもらいます。
過去記事でも何度か紹介しています。
母親が自分の服を勝手に買ってくる人とか⇒母親に私の服を買うのをやめてもらうにはどうすればいいか。
こういう人たちは、チョンさんの言う、「家族の契約」に苦しめられているかもしれません。
子供のときは、親に嫌われるのは死活問題だから、しぶしぶ従うのもありだと思いますが、もう大人になったら、契約の見直しをしたほうが、その後に続く長い人生を楽しく生きられるのではないでしょうか?
ずっとがまんをしていると、心を病んでしまうかもしれません。
家族の契約に文句を言うのは、親に背くことですから、やりたくないでしょうが、一番大事なのは自分の人生です。
チョンさんは、再交渉するステップを話していますが、彼とて、いきなりこんなふうにビジネスライクに、契約の交渉ができたとは思いません。
たぶん、ここへ至るまでにすごく悩んでいます。私には想像できないような苦しみを味わっていたでしょう。
でも、彼は、「やってよかった」と言っています。
家族とは仲良くいられるのが理想ですが、嘘の自分を演じるくらいなら、家族と距離を置いたほうがいいと私も思います。
交渉の5つのステップは、他の人間関係の問題にも使えそうなので、頭の片隅に入れておいてください。
高齢の親に物を捨ててもらいたいときの交渉にも使えそうです。