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人間にはもともと、楽観主義バイアス(物ごとを楽観的に考える傾向)がある、と教えてくれるTEDの動画を紹介します。
タイトルは The optimism bias (オプティミズム・バイアス 楽観主義バイアス)。プレゼンターは、神経科学者のターリ・シャーロット(Tali Sharot )さんです。
「バイアス」とは、先入観や偏見のことです。
楽観主義バイアスにはメリットがたくさんありますが、落とし穴もあるのでバランスを取ることが必要です。
楽観主義バイアス:TEDの説明
Are we born to be optimistic, rather than realistic? Tali Sharot shares new research that suggests our brains are wired to look on the bright side — and how that can be both dangerous and beneficial.
私たちは生まれつき、現実的というより、楽観的なのでしょうか? 人の脳はものごとのよい面を見るようになっている、とターリ・シャーロットが新しいリサーチ結果を紹介します。
この傾向は、私たちにとって、危険でもあり、有益でもあります。
収録は2012年の2月。長さは17分30秒。日本語字幕があります。
ターリさんの英語はとてもわかりやすいし、内容もロジカルなので、英語の勉強の素材に向いています。内容に興味があれば、の話ですが。
動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプトはこちら⇒Tali Sharot: The optimism bias | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
たいていの人が楽観主義バイアスの持ち主
人の楽観的傾向(オプティミズム・バイアス)についてお話します。
これは認知の錯覚の1つであり、私は何年も研究してきました。80%の人は、このバイアスを持っています。
今後、好ましいことが起こる確率を過大評価し、好ましくないことが起こる確率を過小評価する傾向です。このバイアスのせいで、自分がガンにかかったり、交通事故にあう可能性を少なく見積もります。
長生きしたり、仕事がうまくいく可能性は多く見積もります。一言でいうと、私たちは、現実的ではなく、楽観的なのです。
結婚における楽観主義バイアス
結婚の例をあげましょう。
西洋社会での離婚率は40%です。5組のカップルのうち、2組は資産を分ける結果になるのです。けれども、新婚のカップルに、離婚する確率を聞くと、みな、ゼロパーセントだと言います。
現実をよく知っている離婚専門の弁護士ですら、自分たちが離婚する確率をかなり少なく見積もっていますね。
楽観主義の人は、離婚はしないと思っているのに、再婚はある、と思っていたりするわけです。
サミュエル・ジョンソンの、「再婚は、体験に対する希望の勝利(Remarriage is the triumph of hope over experience)」という言葉どおりです。
自分のことについては楽観的
結婚するとたいてい子供ができます。私たちは自分の子供は特別に才能があると考えます。イギリス人4人のうち3人は、家族の将来にたいして楽観的に考えていると答えました。
これは75%です。30%の人だけが、家族は数世代前にくらべて、あまりうまくいっていない、と答えました。
ここに重要なポイントがあります。
人は自分のことについては楽観的なのです。自分の子供や家族については。ですが、隣に座っている人に関しては、そうではありません。自分の国やほかの国民の運命についてはやや悲観的です。
自分たちについては楽観的です。何かが魔法のようによくしてくれる、と思っているわけではなく、自分たちにそうできる特別な能力があると考えているのです。
オプティミズムバイアスはどこの国にもある
いま、ここで実験をしてみましょう。能力や特徴のリストを紹介するので、自分がどのカテゴリーに入るか考えてみてください。
まず、他人とうまくやる能力です。下の25%に入ると思う人? 1500人のうち10人ほどですね。
トップの25%に入ると思う人は? ほとんどの人が手をあげました。
運転能力、自分のおもしろさ加減、魅力、正直さ、謙虚さについても同じ質問をしてみてください。
ほとんどの人が、どんなことに対しても、自分は平均以上だと考えています。これは統計的に不可能ですよね。
全員がほかの人より上だ、という状態にはなりえません。
ですが、もし「自分はほかの人よりもよい」と信じることができると、昇進したり、結婚生活が続いたりします。自分はほかの人より社交的でおもしろい人間だと思っていれば。
これは全世界の傾向です。オプティミズムバイアスは多くの国で見られるし、女性も男性も、子供も高齢者も同様に持っています。
期待が少ないとより幸せになる、という論理は間違っている
はたして、楽観的なのはよいことなのでしょうか?
よくないことだ、と答える人もいます。
幸せになる秘訣は、期待値を下げることだから、というのです。
「すばらしいことが起きると期待していて、そうならなかったとき、とてもがっかりするが、最初から期待していなければ、そうなったとき、幸せになる」というロジックです。
よさそうな論理ですが、3つの点で間違っています。
何が起ころうとも、楽観的な人は幸せを感じる
もともと楽観的な人は、どんなことが起きても、幸せでいます。これは、期待値が低いほうが幸せである、という論理が間違っている1つ目の理由です。
人がどんなふうに感じるかは、そのできごとの解釈の仕方によって決まります。
心理学者のマーガレット・マーシャルとジョン・ブランは、期待値の高さについて調べました。
合格するだろうとより期待していた人が合格すると、その理由は自分にある、と考えがちだということがわかりました。
自分は天才だから、よい成績を取れたし、この先もそうなる、というように。
もし失敗したら、それは自分が馬鹿なせいではなく、テストが不公平だったからだ、今度はよい成績をとれる、と考えたのです。
期待値の低い人は、この逆です。落第すれば、それは自分が馬鹿なせいだし、合格したらたまたまテストが簡単だったからで、次はそうはいかない、と考えます。
結果はどうあれ、期待することが人を幸せにする
期待値が低いほうが幸せになれる、という考え方が、間違っている2つ目の理由は、期待感のせいで人は幸せを感じる、という事実です。
行動経済学者のジョージ・ローウェンスタインは、大学の生徒に、セレブから情熱的なキスをされることを想像してもらう実験をしました。
このキスが、今すぐ、3時間後、24時間後、3日後、1年後、10年後の場合、それぞれにどのぐらいお金を払うかたずねました。
もっとも高値がついたのは、今すぐのキスではなく、3日後のキスです。
少し待つことに対して、よけいにお金を出すと言った生徒が多かったのです。
今すぐキスされると、すぐに終わってしまいますが、3日後なら、そのあいだに、わくわくして待てるからです。いつそうなるのかな、どんな感じなのかな、という期待感が人を幸せにします。
人が日曜日より金曜日を好むのも同じ理由からです。好きな曜日を調査すると、1番は土曜日、次が金曜日、その次が日曜日です。
週末の楽しみの前日である金曜日のほうが、1週間の仕事の前日の日曜より期待感があるのです。
このような期待感は人生をよりよくします。オプティミズムバイアスがないと、人は、少々うつうつとします。
軽いうつ症状にある人は、未来についてオプティミズムバイアスを持ちません。ふつうの健康な人たちより、現実的です。
重症のうつ症状にある人は、悲観主義バイアスを持っています。より悪い未来を想像してしまうのです。
自己充足的予言
つまり、楽観主義は、主観的な現実を変えます。同時に、客観的な現実も変えます。楽観的な考えが自己充足的予言(self-fulfilling prophecy)の役割を果たすからです。
これが、期待値が低いと、幸せになれない3つ目の理由です。
楽観主義は、成功に関係があるだけでなく、実際に成功を導くと実験でわかっています。学問でもスポーツでも政治でも、楽観主義が成功をもたらします。
楽観主義のもっとも驚くべき恩恵は健康だと言えるでしょう。この先が明るいものだと予測していれば、ストレスや不安は少なくなりますからね。
人は悪いニュースを自分ごととして捉えない
このように、楽観主義にはさまざまなメリットがあります。では、現実に直面しながら、どうやって楽観主義を維持すればいいのでしょうか?
期待どおりにいかなかったら、その期待値を変更すべきですが、人は実際にはそうしない、と実験によってわかりました。
人々に、何かが起こる確率を予想してもらう実験をしました。
予想してもらったあと、実際に起こる確率を伝え、その後、その人の予想が変わるかどうか調べました。
情報を与えたあと、人々の予想する確率は変わりましたが、「思っていたよりよい」というポジティブな情報を与えたときだけそうなります。
たとえば、ある人が、「自分がガンになる確率は50%」と言ったとき、「よいニュースですよ。平均的な確率は30%です」と伝えると、その人は次回、「自分がガンになる確率は35%」と意見を変えます。
ですが、「自分がガンになる確率は10%」と言っている人に、「悪いニュースです。平均は30%なんですよ」と伝えても、その人の次の予想は、11%なのです。
みな、ガンになる平均的な確率は30%で、離婚率は40%という数字はしっかり覚えています。けれども、自分ごととしては考えないのです。
警告してもあまりインパクトがないわけです。喫煙は人を殺しますが、自分ではなく、ほかの人が死ぬ、と考えるのです。
悪いニュースを聞いたときの脳の反応
警告を自分にあてはめて考えられないときや、よいニュースだけを自分ごととして考えるとき、脳内ではどんなことが起きているのでしょうか?
MRIという技術を使って、ポジティブな情報を聞いたときに脳のどの部分が反応しているのか、調べました。
反応する部位の1つは、左の下前頭回(かぜんとうかい inferior frontal gyrus)です。「自分がガンになる確率は50%だ」と言った人に、「平均は30%ですよ」と伝えると、この部分が、活発になります。
極端なオプティミスト、ちょっとオプティミスト、多少悲観的な人、みな、ここが反応します。
悪いニュースを伝えると、反対側の右下前頭回が反応しますが、楽観的であればあるほど、ネガティブな情報にあんまり反応しないのです。
悪いニュースをしっかり生かせないと、常にバラ色のメガネでものごとを見るようになってしまいますね。
脳に刺激を与えると楽観主義バイアスが消える
脳の活動に介入して、楽観主義を変えることができるかどうか実験してみました。
ごく少量の磁気パルスを、被験者の頭蓋骨を通して、下前頭回に送ってみました。30分ほど、脳の活動に介入したわけです。
その結果、こんなことがわかりました。
悪いニュースに対して、よいニュースから人が学ぶ割合はこれぐらいです。悪いニュースをきくと活性化される部分に介入すると、楽観度合いはさらにあがります。
よいニュースを聞くと活性化される場所に介入すると、楽観主義は消えます。
この結果を知って驚きました。根強いバイアスをなくすことができたのですから。
私たちは、楽観主義バイアスをほんの少しだけなくしたほうがいいのでしょうか? もしそうできるなら、このバイアスを取り去ったほうがいいのでしょうか?
楽観主義バイアスの弊害
楽観主義バイアスの利点は、すでに紹介しましたから、このまま持っておきたいと思う人が多いでしょう。
けれども、これには落とし穴があり、この点を無視するのは、馬鹿げています。
例としてカリフォルニアの消防士から届いたメールをお見せしましょう。
『消防士に死をもたらした事件の調査は、しばしば「火の回りがこんなことになるとは思わなかった」という結論で終わっています。安全のための決断に必要なすべての情報が出揃っていたとしても』。
この隊長は、オプティミズムバイアスに関する私たちのリサーチ結果を使って、消防士たちに、どうして、そのように行動してしまうのか、楽観主義バイアスはどんなものなのか、知ってもらおうとしています。
非現実的な楽観主義は、ひじょうに危険な行動や経済の破綻、無謀な計画につながってしまうのです。
英国政府は、楽観主義バイアスのせいで、プロジェクトにかかる費用や期間は過小評価するされてしまうと認めて、2012年のオリンピックの予算を、このバイアスを考慮して調整しました。
結婚を控えている私の友達も、結婚費用の予算の調整をしました。彼は、離婚の可能性はゼロパーセントと言っていますが。
楽観主義バイアスをうまく使う方法
楽観主義バイアスの危険から身を守り、同時に、希望を持って暮らすためには、どうすべきなのでしょうか?
もっとも大事なことは知識を得ることです。
私たちは、こんなバイアスがあることを知らずに生まれてくるので、このバイアスの存在を知るべきです。知ったからといって、バイアスが消えるわけではありません。
オプティミズムバイアスについて知れば、バランスを取りながら、非現実的な楽観主義のワナにはまらないようにしつつ、前向きでいられます。
このマンガが、この点をうまく表しています。
自分は飛べるわけがないと思っている悲観的なペンギンは、絶対飛べるようにはなりません。
進化は、いまの現実とは違う現実を想像することから始まります。こういうこともできるんだ、と自分で信じなければなりません。
けれども、極端に楽観的なペンギンは、何も考えずに飛び降りて、地面に叩きつけられます。自分は飛べると信じる楽観性をもち、さらに万が一のためにパラシュートを用意するペンギンは、ワシのように空高く飛べるのです。
たとえ、ペンギンでも。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
Samuel Johnson サミュエル・ジョンソン(1709-1784)
英国の詩人、批評家。自力で「英語辞典」を作った人です。英国では「16世紀のシェイクスピア、18世紀のジョンソン」と呼ばれている文豪。
self-fulfilling prophecy 自己充足予言、自分で実現させる予言
たとえば、「きょうはイライラするできごとに遭遇しそうだ」と思っていると、実際にイライラすることが起こるようなこと。
人(脳)は自分が探しているものを見つけようとするのでこういうことが起きます。
自己充足予言の例はこちらに詳しく書いています⇒無礼な人や気が利かない人にいちいちイライラしない3つの方法。
inferior frontal gyrus 下前頭回
脳の前頭葉にある脳回。脳回は大脳皮質のしわの隆起した部分(溝じゃない方)。
ターリさんの本(邦題:脳は楽観的に考える)は翻訳されています。画像クリックでアマゾンに飛びます。
楽観主義や認知バイアスに関するほかの記事
たくさん書いていますが、ここでは7つだけ紹介します。
成功すると幸せになるのではなく、幸せだから成功する~ショーン・エイカー(TED)
ポジティブ思考は学習できる。前向きになる4つのポイント教えます。
間違っているのに、自分が正しいと感じてしまうのはなぜなのか?
(TED)
人は変わり続ける。未来の自分に対する心理:ダン・ギルバート(TED)
我々は本当に自分で決めているのか?ダン・アリエリーに学ぶ、選択のミス(TED)
行動を起こさない人は楽観主義バイアスのワナにはまっている
ターリ・シャーロットのプレゼンを聞き、行動を起こさない人や、ずるずると物ごとを先延ばしする人は、楽観主義バイアスのワナにはまっているのかもしれない、と思いました。
汚部屋の住人は、「何もしなくても、いつか勝手に片付くんじゃないか」と思っているのではないでしょうか?
もうすぐ老後なのに貯金ゼロのまま、何のアクションも起こさない人は、「何もしなくても、なんとかなるんじゃないか」と思っています。
クローゼットの中が服でいっぱいで、もう収納する場所がないのに、服を買い続ける人は、「買ってしまえば、しまうところはなんとかなる」と思っているのでしょう。
「いつか使うことがあるから」と言いながら、いつまでもガラクタを捨てない人も、楽観的にそんな時が来るのを期待しているのかもしれません。
物ごとは、(自分は何もしなくても)すべて自分の都合のよいようになっていく、と思っているわけですね。
けれども、ターリさんがプレゼンで言っていたように、楽観主義を発揮したほうがいい場合と、そうじゃない場合があります。
自分の考え方のクセを自覚し、客観的な事実と照らしあわせながら、非現実的な楽観主義を修正すれば、暮らしの質があがります。
特別なことをしていなくても、つねにリスク管理が必要ということですね。
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「筆子さんは、なんでもかんでも捨てろと言うけれど、捨てたあと後悔することがあるから、気をつけるべきです」というメールをもらったことがあります。
私は、なんでもかんでも捨てろ、なんて書いていませんが、この人は、そう感じているようです。
「捨てると後悔する」と思っているから、本当にあとで後悔する、という点を再度、強調しておきます(自己充足予言)。後悔するほうを選択する、とも言えます。
カレン・キングストンは、「ガラクタを捨てない人は、自分の未来を信じていない人だ」と書いています⇒どうしていつもぐしゃぐしゃなのか?あなたの家が片付かない最大の理由はこれ
自分や自分の未来を信頼できる能力は、断捨離に限らず、何をやるにも、成功するために大きな鍵を握っています。