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TEDの動画

最終更新日: 2021.03.19

貧困は人格の問題ではなく、現金がないだけの話:ルトガー・ブレグマン(TED)

ページに広告が含まれる場合があります。

 

お金に対する考え方を変えるTEDの動画を紹介します。

タイトルは、Poverty isn’t a lack of character. It’s a lack of cash (貧困は人格の欠如ではなく、現金がたりないこと)。

プレゼンターは、オランダの歴史家、ルトガー・ブレグマン(Rutger Bregman)さんです。

邦題は、 貧困は「人格の欠如」ではなく「金銭の欠乏」

貧しい人は、「足りないマインド(scarcity mindset スケアシティ・マインドセット)」になっているので、次々と愚かな決断をしてしまう。そして、ますます貧しくなる。

よって、貧しい人にはお金を配ってしまえば(ベーシックインカムを保障すれば)、貧困はなくなるよ、という内容です。



貧困は人間性の問題ではない:TEDの説明

“Ideas can and do change the world,” says historian Rutger Bregman, sharing his case for a provocative one: guaranteed basic income. Learn more about the idea’s 500-year history and a forgotten modern experiment where it actually worked — and imagine how much energy and talent we would unleash if we got rid of poverty once and for all.

「アイデアは世界を変えることができるし、変えます」。歴史家のルトガー・ブレグマンはこう言います。

彼は、ベーシックインカム(基礎所得)を保障すればいい、という挑発的なアイデアをシェアします。

500年前の思想や、うまくいっていたのに忘れ去られてしまった実験について、知ってください。

貧困を完全になくしてしまえば、どれだけのエネルギーや才能が生かされることになるか、思い描いてください。

収録は2017年の4月。動画の長さは14分50秒。日本語字幕あり。動画のあとに、抄訳を書きます。

☆トランスクリプトはこちら⇒Rutger Bregman: Poverty isn’t a lack of character; it’s a lack of cash | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に





貧乏人が愚かな決断をするのはなぜ?

シンプルな質問から始めましょう。

なぜ貧しい人は、愚かな決断ばかりしてしまうのでしょうか? 

貧しい人は、そうでない人に比べ、借金が多く、貯金が少なく、喫煙率が高く、あまり運動しないし、お酒をよく飲むし、不健康な食事をする、というデータがあります。

なぜでしょう?

よくある回答は、英国の首相だったサッチャーの言葉に代表されます。サッチャーは、貧しさは、「人格の欠陥だ(a personality defect)」と言いました。

人間性に問題がある、ということです。

ここまではっきり言う人は、少ないでしょう。けれども、貧しいのは貧しい人自身に問題があるから、と考えるのは、サッチャーだけではありません。

本人のあやまちの結果、貧乏なんだ、自己責任だ、という人もいるし、貧乏人が、よりよい決断をできるように助けてあげるべきだ、という人もいます。

こうした意見の根底にある考えは、貧乏な人には何か問題がある、です。

その問題を正してあげれば、生き方を教えてあげれば、ましになる。彼らが、私たちの言うことを聞きさえすればいいのだ、という考えです。

実は、私も長いことそう考えていました。しかし、数年前、貧困に関する自分の考えは、まったく間違っていたことに気づきました。

たまたま、アメリカの心理学者の論文を読んだのがきっかけです。

インドのさとうきび農家での実験

彼らは、インドのさとうきび農家で、驚くべき実験をしました。

さとうきびを作っている人たちは、収穫の直後に、いちどきに、年収の6割を手にします。

1年のうちある時期は貧乏で、べつの時期は金持ちなのです。研究者たちは、収穫前と収穫後に、農家の人の知能テストを、行いました。

その結果に私は驚いたのです。

収穫前のテストのスコアは、収穫後の結果に比べてずいぶん悪かったのです。貧しさの中にいると、知能テストで14ポイントも下がります。

貧しさは、一晩寝ない状態や、アルコールの影響のある状態と同じといえるわけです。

これを知ってしばらくしてから、プリンストン大学のエルダー・シャフィール教授の研究を知りました。

研究者の一人が、私の住むオランダにやってきたので、貧困に関する理論について話を聞きました。

その内容を一言でいうと、欠乏の心理(scarcity mentality スケアシティ・メンタリティ)となります。

欠乏の心理とは?

何かが足りないと感じていると、人々の行動が変わります。

それが何かは、問題ではありません。時間、お金、食べ物、なんにでもあてはまります。

みなさんも体験したことがあるでしょう。やることがたくさんありすぎるときや、昼食を抜いて、血糖値がさがったときなど。

そんなとき、足りないものにばかりに意識が向きます。いますぐ食べなきゃならないサンドイッチ、5分後に始まるミーティング、明日払わなければならないお金に。

ものごとを長期的に見られなくなるのです。

これは、容量を食うソフト10個を一度に稼働させている新しいコンピュータと同じです。

動きがどんどん遅くなり、エラーを起こし、あげくにフリーズします。この場合、パソコンの性能が悪いわけじゃありません。一度にやることがありすぎるのです。

貧しい人も同じ問題を抱えています。愚かだから、愚かな決断をするのではなく、どんな人でも愚かな決断をしてしまう環境で暮らしているのです。

貧困対策プログラムはうまくいかない

これを知って、なぜ、貧困対策の多くが、うまくいかないのかわかりました。

たとえば、投資や教育は、ことごとく効果がありません。貧困は知識の欠乏ではないのです。

お金の管理に関するトレーニングを扱った201の研究を分析したところ、そんなことをしても、何も変わらないと出ました。

貧しい人は何も学ばないということではありません。トレーニングを受けた人の知識は確かに増えました。

しかし、これでは不十分です。シャフィール教授は、「誰かに泳ぎを教えて、いきなり嵐の海に放り込むようなもの」と言っています。

これを聞いて困惑したことを覚えています。こんなことは、もう何年も前にわかるべきだったのです。

インドでリサーチした心理学者は、べつに脳をスキャンする必要はありませんでした。農家の人のIQを調べただけです。IQテストは、100年以上前にできています。

ジョージ・オーウェルの語った貧困

貧しさの心理については、すでにジョージ・オーウェルの著作を読んで知っていました。

彼は1920年代に貧困を体験しています。「貧困の本質が未来を殺す(The essence of poverty annihilates the future.)」とオーウェルは書いています。

「人の収入が、ある一定のレベルより下がると、人々は、当然のようにその人に説教したり、その人のために祈ろうとするのだ」とも。

現代の状況も全く同じです。

貧困をなくす方法

ではどうしたらいいのでしょうか? 近代経済学者は、いくつか解決策を考えました。

貧しい人の事務処理を手伝ったり、請求書の支払いを忘れないように、テキストメッセージを送ったり。

現代の政治家の好みそうなやり方です。ほとんどコストがかかりませんから。

対症療法に徹して、本質的な原因は無視するこうしたやり方は、いかにも現代を象徴していますね。

そんなことより、貧乏な人の環境を変えてしまえばいいのではないでしょうか?

コンピュータのたとえで言えば、単にメモリを増設すれば問題は解決します。

この話をしたら、サフィール教授は驚いた顔をしました。

「ああ、なるほど。貧困をなくすために、貧しい人にお金を渡せばいいと言っているのですね。いい考えです。でも、アムステルダムにある左翼的な政治は、アメリカにはありません」。

ですが、これは本当に、古臭い社会主義の考えなのでしょうか?

昔からあるベーシックインカムというアイデア

歴史を通じて、さまざまな思想家が考えたアイデアを思い出しました。

500年以上まえ、哲学者のトマス・モアが、『ユートピア』という本に書いたことです。

左翼、右翼かかわらず、市民権運動をしたマーティン・ルーサー・キングや、経済学者のミルトン・フリードマンも言っていることです。

それは、とても単純な方法です。

つまり、基礎所得の保障(basic income guarantee ベーシックインカムギャランティー)です。

最低限必要な食べ物、住居、教育に払うお金を毎月、人々に給付します。

もらうのになんの条件もありません。もらうために何かをする必要はなく、もらったあとそのお金をどう使おうと自由です。

基礎所得は、好意でもらうものではなく、もらう権利のあるものです。もらったからといって恥ずかしいことはいっさいありません。

貧困の本質について知るにつれ、これこそが、解決法だと考えるようになりました。

ドーフィンでの実験

その後、3年間、基礎所得についてあらゆる本を読み、世界中の実験について調べました。そして、かつてこの方法で貧困をなくした街があることを知りました。

しかし、この実験のことはすっかり忘れ去られていたのです。

1974年、カナダのドーフィンという小さな街では、誰もが、基礎所得を保障されていました。

最初の4年間はうまくいっていました。ところが、カナダで新政府が誕生すると、内閣は、こんなお金のかかる実験をしても何の意味もないと考え、結果を分析する予算を出さなかったのです。

研究者たちは、データを2000の箱に入れてしまいこみました。

25年たって、カナダのイヴリン・フォルジェ(Evelyn Forget)教授がデータを発見しました。フォルジェは3年かけてデータを分析、検証し、どんな方法で分析しても、ベーシックインカムの実験は成功しているという結論に至りました。

ドーフィンの人々は、経済的に豊かになっただけでなく、より賢く、健康になったのです。

子どもたちの学校の成績は大きく向上し、人々が病院に入院する率は85%もさがり、家庭内暴力が減り、こころの病に関する不満も減っていました。

人々は仕事をやめることもありませんでした。仕事をする時間が減ったのは、子どもを生んだばかりの女性と学生です。学生は学業に専念する時間が伸びました。

ほかのさまざまな国の実験でも同様の結果がでています。

貧困は人の可能性の無駄遣い

貧困に関して、お金を持っている人たちが、知ったかぶりをするのはやめるべきです。

会ったこともない貧しい人に、靴やぬいぐるみを送るのをやめるべきです。父親みたいな態度の役人がはびこる産業は廃止し、彼らの給料を貧しい人にあげればいいのです。

お金のいいところは、自分の好きなように使えるところです。他人に指図されずに。

いかにたくさんの優秀な科学者、起業家、文筆家が、いま、お金が足りなくて困っているか、想像してください。

貧困がなくなったら、どんなにたくさんのエネルギーや才能を救うことができるか。

基礎所得は、人々にとってヴェンチャーキャピトル(ベンチャー企業に投資する投資家)のような役割を果たします。

ベーシックインカムを保障せずにはいられません。なぜなら、貧困をそのままにしておくと、とてもコストがかかるからです。

たとえば、アメリカの子どもたちの貧困のために、毎年5000億ドルかかっています。貧困のせいで、医療費がかさり、学校をドロップアウトする率があがり、犯罪が増えているからです。

人の可能性の大きな無駄遣いです。

ベーシックインカムに使うお金

では、ベーシックインカムを保障するお金はどうしたらいいのでしょうか?

実は、思いのほか安いのです。

ドーファンで行ったのは、「マイナスの所得税」です。貧困ラインより下回ったら、足りない分のお金をもらうことができました。

この方法をとれば、経済学者の試算によると、1750億ドルあればできます。これは、アメリカ軍の費用の4分の1であり、GDPの1%です。

これだけで、アメリカの貧困層を持ちあげることができるのです。

貧困をなくすことができます。これが私たちのゴールです。

今こそ、ラジカルな新しい発想をするときです。ベーシックインカムを保障するのは、ただの政策ではなく、実際にうまくいく新しい考え方なのです。

ベーシックインカムはどんな人も自由にする

基礎所得の保障は、貧しい人を自由にするだけでなく、ほかの人も自由にします。

いま、何百万という人が、自分の仕事にはろくに意味がない、と考えています。142カ国、23万人の従業員に対しておこなった最近の調査によると、自分の仕事を好きな人は、たった13%にすぎませんでした。

べつの調査では、英国の労働者のうち、37%が、自分の仕事は存在する意義がない、と考えています。

まるで、映画『ファイトクラブ』でのブラッド・ピットのセリフです。「必要のないゴミを買うために、きらいな仕事ばかりしているのさ」。

教師やゴミ収集人、ケアワーカーの話をしているわけではありません。このような人たちが働くのをやめたら、みな、困ってしまいます。

私は、給料のいい、すばらしい経歴をもつプロフェッショナルのことを言っています。

戦略的取引をするピア・ツー・ピアミーティング、ネットワーク社会での快適なコークリエーションとか言いながら、付加価値を与えるためのブレインストーミングなんかをしてお金を稼いでいる人たちの話です。

いかに才能が無駄にされているか、考えてください。子どもたちに、「生きるために働きなさい」と教えるからなんです。

数年前、フェイスブックで働く数学の天才がこんなふうに嘆いていました。「私たちの世代でもっとも優秀な頭脳の持ち主が、いかに人々に広告をクリックさせるかなんてことを考えているんです」。

アイデアで世界は変わる

私は歴史家です。歴史から何かを学べるとしたら、物ごとは変わりうる、ということです。いまの世の中の仕組みや経済で、避けられないことは何もありません。

アイデアは世界を変えることができるし、実際、変えます。特に、ここ数年、現状維持ではいけないということがはっきりしてきました。

格差の増加や、外国人を嫌うこと、気候の変化に対して、悲観する人も多いでしょう。

ですが、私たちが何に反対しているのか知るだけでは不十分です。賛成しているものも知らなければ。

マーティン・ルーサー・キングは、「私には悪夢がある」とは言いませんでした。彼には夢があったのです。

私の夢はこれです。

人の仕事の価値が、給料で決まるのではなく、その人が周囲に与える幸せや、意義で決まる未来を信じています。

意味のない仕事につくための教育ではなく、より充実した人生を生きるための教育がある未来を信じています。

貧困のないことが、特権ではなく、どんな人にもそうなる権利がある未来を信じています。

さあ、リサーチもすみ、証拠もあり、方法もそろっています。

トマス・モアが、はじめてベーシックインカムについて書いてから500年以上たち、ジョージ・オーウェルが、貧困の本質を書いてから100年以上たち、世界の見方を変えるときがきています。

貧困は人格の問題ではなく、現金がないだけなのですから。

///// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

elephant in the room 見て見ぬふりをしている問題 直訳:部屋の中のゾウ

xenophobia 外国人嫌い

ルトガー・ブレグマンさんの著書は翻訳されています。

英語版のタイトルは Utopia for Realists、自費出版に近い形で最初に出版されたオランダ語版のタイトルは「ただでお金をくばりましょう」だったそうです。

エルダー・シャフィール教授の共著はこちら。

紙本にリンクしましたが、両方ともキンドル版があります。

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足りないマインドが事態を悪くする

プレゼンに出てきた、scarcity mentality (欠乏の心理)を私は、「足りないマインド」と呼んでいます。

足りない、と思っていると、冷静に考えることができなくなり、ものの見方が短絡的になります。

そのため、まずい意思決定をして、ますます事態を悪くするのです。

ブレグマンさんは、「だから、お金をあげて、足りている状態にすればいい。そうすれば、みんな、もっとましな行動をする」と言っているわけですね。

ギリギリの生活をしている人が、足りないマインドになるのは仕方ありませんが、いまは、わりと恵まれている人も足りないマインドに陥っています。

先日、質問をくださった読者もその一人⇒お金を使うのが怖い理由は、ネガティブな考えにとらわれているから。

使っていないタオルや、着ていない服を捨てられない人も、足りないマインドの持ち主ではないでしょうか?

「これは高かったから捨てられない」と考える人も。

たくさんタオルがあるのに、「まだ足りない」と思っているか、自分には能力が足りないから、将来タオルがなくて困ったとき、なんとかすることができないのだ、というように。

それはほとんど無意識の発想でしょう。

もともと、人間は、よくないことに目をむけるようにできているし⇒人はネガティブ思考を引きずるようにできている話と、そこから抜け出す方法(TED)

新聞のニュースは基本的に「足りない話」ばかりだし、

誰もが、毎日のように、広告で、「これがあれば幸せになれます」というメッセージを受け取っています。

これがあれば幸せということは、「いまのあなたは、これが足りないんです」と言っているようなものです。

けれども、本当はもう足りているんじゃないでしょうか?

足りないものに目を向けることが少なくなれば、外的状況が全く変わらなくても、もっと満ち足りた暮らしになります。

それは、「足るを知る」という道徳というより、自分のためになる価値観です。

*****

足りないマインドは、お金、時間だけでなく、人間関係や物に対しても、発生します。

この人をのがしたら、もう結婚するチャンスがない、と考えるのも足りないマインドのせいですね。





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