湖を見て振り返っている女性

TEDの動画

最終更新日: 2024.11.8

父の最後の日々から得た教訓(TED)

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つらい状況にある人や、罪悪感を手放したい人の助けになるTEDトークを紹介します。

タイトルは、Lessons from My Father’s Final Days (父の最後の日から学んだこと)。

作家の Laurel Braitman(ローレル・ブレイトマン)さんの講演です。



父の最後の日々:TEDの説明

“Life is an endless sushi conveyor belt of things that are going to test you and teach you at the same time,” says writer Laurel Braitman. Exploring the relationship between bravery and fear, she shares hard-won wisdom on love, loss, self-forgiveness and how to embrace the full spectrum of human emotions.

「人生はあなたを試すと同時に、学びをくれる終わりのない回転寿司のベルトコンベアです」。こう作家のローレル・ブレイトマンは言います。

勇気と恐怖の関係をさぐりながら、ブレイトマンはつらい体験から見つけた、愛、喪失、自己を許すこと、そして人の感情を味わい尽くす知恵をシェアします。

収録は2023年の10月。動画の長さは13分。動画のあとに抄訳を書きます。

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

お父さんとのエピソードが、胸を突くトークです。





病気になった父

私の子供時代はふつうと違っていました。

私は南カリフォルニアのアボカドと柑橘類を栽培するユダヤ人の家に生まれました。

父は外科医で母が農場を運営し、私達は果物を売って、ロバを救助していました。

とても美しくて不思議で恵まれた幼少期でしたが、私が3歳のとき、42歳の父は転移性骨癌になり、余命6ヶ月の告知を受けました。

1980年代はじめは、骨癌の治療はとても厳しいもので、父は右足を切断し、化学療法を受けました。

奇跡的にも、父は死にませんでしたが、私が11歳のとき、がんが再発し、そのまま定着しました。

常に死のカウントダウンがあり、私達は治療の合間、合間を生きているような感じでした。

誰でも、死への時を刻む時計を持っていますが、私の家庭では、その時計の音が常に鳴っていたんです。

あらゆる準備をした父

父のがんは、背中、首、もうひとつの膝など、いろいろなところに転移し、父はそのたびに治療を受けては私達の元に戻ってきました。

それはまるで、私達と過ごす時間を得るために、父が身体を少しずつ明け渡しているかのようでした。

がんが再発したとき、父は、私と弟に父親がいなくてもサバイバルできるようさまざまなことを教える決意をしました。

本当にいろいろなことを父から教わりました、

道で襲われたとき、男性の目をつぶす方法や、デューイ十進分類法(Dewey Decimal System、図書館の本の分類法)、土壌の健康におけるナイトロジェンの役割、国連加盟国などなど。

さらに父は自分がいなくなったときのために、たくさんの準備をしました。

蜂を育てて、何十年分もの蜂蜜を作り、農場のまわりにたくさんの木を植えて、私達が将来、果実を食べられるようにしたり、鳩小屋を作って、弟に鳩を育てさせました。そのとき私はまだ12歳でしたが、いつか私の結婚式で鳩を飛ばせるようにという父の配慮でした。

こうしたことをしている間、父はずっとひどい痛みに苦しんでいたはずですが、その話はしませんでした。

父は、いつも、私や弟、母と人生をエンジョイできないときが自分の死ぬ時だと言っていたので、私はこの言葉を信じていました。

でも、16歳のとき、薬棚で、名前の書かれていない薬を見つけて、それが何かすぐわかりました。

それは、死ぬ時のための薬。当時は非合法でした。

父は自分の計画を実行しながら、これ以上痛みに耐えられないと思ったとき死ぬつもりだったんです。

薬を見つけたことは誰にも言いませんでした。

父にさよならを言わなかった

その6ヶ月後、父と電話で話をしていたとき、言い争いになったんです。

ほんとに、ばかげたことで。私が大学に願書を出したくないと言ったら、けんかになり、すごく頭に来たので、私は父にさよならも、愛しているとも言わず電話を切りました。

実はこのとき、父は薬を飲むつもりで、私にさよならを言うことができずにいたんです。

家に戻ったら、父の意識はなく、2度と父の声を聞くことができなくなりました。

父が死んだあと、私は父が望んだことを父が望んだ以上にやろうとしました。

いい成績を取ろうと必死に勉強して、カレッジスポーツも2つやって、本を書き、博士号を取得し、30代なかばになって、完全に燃え尽きました。

私は、自分が優秀でいい人だと証明するために、生きてきたんです。

いい人は、死にかけている父親の電話を勝手に切ったりしないはずだから。

さまざまな業績や輝かしい経歴を作って、恥、後悔、恐怖などのネガティブな感情を麻痺させてきたんです。

ネガティブな気持ちは本当に大きくて、そういう気分に1分でもなったら、もう2度と、ほかの感情にはなれないと思っていました。

でも何をしてもネガティブな感情を押し殺すことはできません。何度もぶり返しました。

新しい生き方を模索した

私は表面的には成功して、豊かになっていったけれど、内側では、不安で怖くて自分の価値を疑っていました。

ネガティブな感情を避けようとするあまり、楽しいことも消していました。

人生のよいもの、喜び、誇り、愛などを取り逃したくないと思っていたのに、そういうものを体験することを許せないでいました。

私には新しい生き方が必要でした。

新しい生き方を求めて、いろいろなことをしました。深い悲しみ(grief グリーフ)を癒やすための専門家やセラピストと本当にたくさん話をしました。

自分が一番怖いことをするために、食べものもテントもない荒野に行ったこともあります。全く邪魔されない環境で自分自身の思考や感情と向き合うために。

その結果、5日は断食できるし、誰とも話さず1週間は過ごせる、ずっとスマホをチェックしないでいられることがわかりました。

自分を責めなくてもいいと気づいた

でも、一番、私の心に響いたのは、子供たちのためのグリーフサポートの組織でボランティアをした体験です。

たくさんの子供たちが、「自分が悪かった」と考えていました。

母親が死んだとき、よそで遊んでいたから、病気の親に、怒ってひどいことを言ったから、それぞれが深く後悔していました。

子供たちの身の上に起きた悲しいできごとは、絶対彼らの責任ではないと思いました。そのときはじめて、もしかしたら私もそうなのかもしれないと気づいたのです。

自分を責めることで、なんとか子供たちは喪失を受け入れようとしていたんです。

自分を責めるのはつらいけれど、そうすれば、悲しかったできごとが起きた理由を得られますから。

つらい状況になったとき、人は、自分を責めることがありますが、そうするほうが自分が無力だと認めることより簡単だからです。

これこそ、私が父を失ってから25年間、ずっとしてきたことです。

でも、罪悪感や恥の気持ちがあるからといって、あなたが、何か間違ったことをしたというわけではりません。

後悔しているからといって、もっと違う行動を取るべきだったとは限らないのです。

とてもシンプルな話ですが、これを受け入れるのは本当に難しいことです。

いつも人生に試される

でも、人生は、次々と回ってくる回転寿司のベルトコンベアのようなもの。

人生はあなたを試し、同時に教えてくれます。

このことに身を持って気づきました。

まず父を失くし、しばらくしてから山火事で家を失くしました。

火事でほとんどすべて燃え落ちました。父があんなにがんばって私達に残してくれたものもすべて。

ただ1つの例外は、奇跡的に焼け残った小さな小屋にあった、いくつかのプラスチックのバケツに入った父の蜂蜜です。

30年前に作った蜂蜜だけど、問題なく食べられます。

古代エジプトでは、蜂蜜を甘味料として、また自然の抗生物質として使いました。

太陽神が泣くと、地上に落ちた涙が蜂になり人々のために蜂蜜を作る様子が描かれたパピルスがあります。

悲しみから生が生まれる。痛みが甘さになり、つらさが薬になるのです。

母にはしっかりお別れをした

火事の2年後、母を失くしました。母もがんでしたが、進行が早いものでした。

母は、今は合法になった死ぬ権利を選びました。

父とのことがあったから、母のときは、ちゃんと母に気持ちを伝えました。

生前葬(living memorial service)をして、母に母がどんなに大事な存在だったか話し、母も、同じことを私達に言いました。

それはとても美しい体験でした。本当に悲しかったけれど。

もしできるなら、誰もが「さようなら」を言う機会を持つべきだと思います。

痛みがあるから喜びがある

今私にわかること、そして、若い頃の自分に言いたいことは、痛みなくして喜びは持てないということ。

困難なことがなければ、レジリエンスを持てないし、悲しみがなければ幸福もないし、恐怖がなければ勇気もありません。

これらのことは、相反するものではなくパートナーなんです。

「永遠に幸せ (happily ever after)」なんてありません。あるのは、「悲しくて幸せ」か「幸せで悲しい」です。

でもこれで十分です。

いえ、十分以上です。

私達はこの世界にやってくるまえに、コズミックリリースフォーム(cosmic release form 宇宙譲渡証書))にサインをして、誰かや何か、どこかを深く愛することには大きなリスクがあることを認めている……私はこう考えるのが好きです。

そのフォームこんな宣誓があるでしょう。

「生きるチャンスと引き換えに、痛み、喜び、楽しみ、悲しみを、しばしば同じときに受け取らなければならないことを認めます。これは生きるために必要な切符の料金です」。

このフォームにサインするのに、遅すぎることはありません。

//// 抄訳ここまで ////

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いろいろな洞察が得られるプレゼンですが、ここでは自分を許すことについて少し書きます。

「自分で自分を許す」という言葉はしばしばTEDトークに出てきますが、日本語ではそういう言い方がないので、ぴんと来ない人も多いかもしれません。

これは自分の身に起きたことを理由などは探さずに、そのまま受け入れることだと思います。

もう少し難しい言葉で言うと「自己受容」です。

「あのときは仕方がなかった」と思えば、ずっと罪悪感や後悔、恥の気持ちにさいなまれなくてすみます。

ところが、私達はなかなかそういう心理になれません。

罪悪感をずっと感じて、自分で自分を罰しながら生きている人がたくさんいます。

そういう人達は、かつてのブレイトマンさんがそうだったように、オーバーアチーバー(非現実的な高い水準を自分に課してどこまでもがんばり、ばりばり業績を残す人)であることが多いんです。

でもどんなに業績を積み重ねても幸せになれません。

プレゼンで語られていたように、人生ではいつもリハーサルなしに、いきなりいろいろな問題やチャレンジが降りかかってくるので、毎回、完璧な対応ができるほうおかしいです。

失敗やつまづき、悲しいできごと、そういうネガティブなことも全部合わさって人生だと思えば、「よくないことをしてしまった」と思う自分を許せるのではないでしょうか?

自分を罰しながら生きるのは、自分のためのみならず、まわりの人のためにもなりません。

****

ブレイトマンさんが、自分を罰しながら生きることをお父さんは決して望んでいなかったでしょうね。

お父さんが一番望んでいたのは、ブレイトマンさんの幸せだったと思います。





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