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私たちがどんなふうに思考するのか、コンピュータと比較して説明している動画を紹介します。
タイトルは、What is a Thought? How the Brain Creates New Ideas (思考とは何か? どうやって脳は新しいアイデアを作るか)
脳神経学者のヘニング・ベック(Henning Beck)さんのスピーチです。
新しいアイデアの作り方:TEDの説明
How does the human brain work and how is it different from computers?
If you think this is too complex to explain in a few minutes, you will be surprised.
In this energetic and insightful talk, neuro-scientist Dr. Henning Beck gives insights into thought processes and tells you how you can create new ideas.
人間の脳はどんなふうに機能して、それはコンピュータとどう違うのでしょうか?
これを数分間で説明するには、複雑すぎる問題だと思っていたら、驚くでしょう。
この熱く洞察の深いスピーチで、脳神経科学者のヘニング・ベック博士は、思考のプロセスに関する見識を伝え、新しいアイデアの生み出す方法を伝えてくれます。
2016年の10月収録。動画の長さは18分。日本語字幕もあります。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
今回は、日本語字幕があるので、抄訳は軽めに書きます。
情報を得ることと、考えることは違う
アイデアや思考とは何でしょうか? どうやって私たちは、その考えが、周囲に広げるに足るものだと思うのでしょうか?
私はヘニング・ベックで、脳の研究をしています。
人が情報を使って、新しいアイデアを思いつく時、脳でどんなことが起きているのか、お話しします。
これは重要なトピックです。
なぜなら、私たちのまわりには情報があふれていますから。
そこら中にデータがあり、盛んに話題になっています。
実際は、データは単純なものです。文字、数字、記号の集まりで、電気的に処理できます。そこに意味はありません。
データは測定可能ですが、アイデアは測定できません。
たくさんある思考の中で、世界を変えてしまう思考は1つだけです。
情報のほうがデータより重要でしょう。
今や、情報を得る手段はいくらでもあります。
ですが、情報を得ることと、アイデアや知識を得ることを混同しないでください。
Googleで調べれば、情報はいくらでも見つかりますが、アイデアを検索することはできません。
知識を得て、物事を理解することは、みなさんの頭の中で起きているからです。情報を使って、考え方を変えています。
思考とは何か?
そもそも思考とは、いったい何でしょうか?
この図で見えているのは、考えているとき起きていることの表面にすぎません。
ほとんどのことは、無意識のうちに行われます。
脳のコンピュータの違い
脳の中をズームアップしてみましょう。
多くの人は、脳はスーパーコンピュータのようなものだと考えています。高速で、ネットワークがたくさんあり、正確だと。
何かイメージを思い浮かべているとき、それはとてもはっきりと正確に見えていて、消すことも簡単で、パソコンより速くできる、と。
ですが、実際は、この逆なんです。
コンピュータは、1秒に34億回の計算ができますが、脳細胞はもっとずっと遅くて、最高でも、500回しかできません。
コンピュータは間違えません。1兆回に1回エラーが出る程度です。
脳は、皆さんもお気づきのように、もっとたくさん間違えます。
コンピュータをインターネットに接続すると、世界とつながることができます。これは、脳と大きく違うところです。
脳の考えることの99%は、自分に意識が向いていて、脳の神経線維は、頭蓋骨の外に出ないし、脳細胞も、外に出て現実を見たりはしません。
つまり、脳は、不完全で、貧弱で、自己中心的だけど、それでもなんとかうまく働いているものなのです。
脳のほうがすぐれている理由
とは言え、脳は、コンピュータより、すぐれた働きをします。
これは何でしょうか? 顔だと答えるでしょう。合っています。同時にこれは、果物と野菜の集まりですが、顔に見えますね。
おもしろいのは、ものすごく速く、そう判断できることです。
脳は、遅いときは、1秒に20~40の作業しかできないのに。
コンピュータのソフトは、もっとたくさんの段階を経なければなりません。顔だと判断するのに、数百万のステップを要するでしょう。
ここに、人間の思考の基本的な原理があります。私たちの思考は、他のものと全く違うのです。
コンピュータの思考プロセス
顔だと判断するために、コンピュータはアルゴリズムを使います。アルゴリズムは、何をなすべきか、ステップバイステップで示す指示(プログラム)です。
顔を判断したり、方程式をといたりといった問題に取り組むとき、コンピュータは、情報をインプットし、アルゴリズムに従ってその情報を処理し、アウトプット(結果)に到達します。
入力⇒処理⇒出力です。
ミスさえしなければ、すばらしいやり方です。しかし、最初にミスをすると、とんでもない結果が出ます。
だから、コンピュータはときどき、止まって青いスクリーンが出たりしますね。
コンピュータは止まることがありますが、人間の脳は止まりません。アルコールなど、外的要因を加えない限りは。ふだんは、脳はとっても安定しています。ちょっとしたこつを使うからです。
脳の思考プロセス
人が何かを見ると、目から情報をキャッチし、その情報は、感覚細胞によって処理され、それが周囲の神経ネットワークを動かします。
この図は脳が何かを考えているさまを簡単に描いたモデルです。
脳細胞は、それだけだと何もできませんが、たくさん集まると、活動パターン(activity pattern)という、特定の神経回路が活動している状態を作ります。
この活動パターンが、思考です。コンピュータと、大きく違うのはここです。
脳は、情報の処理とアウトプットを区別しません。情報の処理は、思考そのものだからです。
脳はオーケストラのようなものだと考えてください。
オーケストラの団員たちが、演奏せず、隣り合って座っているのを見ても、これからどんな音楽を奏でるのか、わかりません。
脳も、外から見ただけでは、これからどんな思考をするのか検討がつきません。
オーケストラの団員たちが、演奏を始め、それぞれの演奏が合わさると、音楽が生まれます。
脳も、脳細胞が集まって同期する(一緒にバランスをとりながら活動する)と、思考が生まれます。思考は、どこか特定の場所にあるわけではないのです。
脳細胞が、お互いに影響を与え合って、情報を処理することが、思考なのです。
コンピュータは新しいものを生み出さない
コンピュータは、どんなに高性能でも、入力⇒処理⇒出力という形をとります。
ミスをせず、この処理をすれば、プログラムされたとおりの結果にたどり着きますが、そこには、新しいものは何もありません。
コンピュータには知能がありますが、その能力は特別なものではありません。
「知能がある」とは、ルールにしたがって、できるだけ高速に処理することであり、そのルールを変えることはしません。
どんなにすばらしいコンピュータでも、この世界を支配することはありません。知能だけでは不十分なのです。
ルールをこわし、すべてを変える力が必要です。突飛で創造的なことをしなければならないのです。
間違えるからアイデアを思いつく
私たちの脳が、クリエイティブではない機械と違うところは、完璧ではなく間違いをするところです。
間違いとは何でしょうか?
それは新しい考えにたどりつくことです。
それが正しいかどうかは考えず、新しい活動パターンにただりつくことです。
脳で少し違った作用が起きると、私たちは新しいパターン、つまり新しい思考を見つけます。
それが合っているかどうかはわかっていません。試して、失敗し、また試します。「いい考え」に、客観的な基準はありません。
いえ、1つありますね。
その考えがいいアイデアなら、誰かが、「それはいい考えだ!」と言います。
こうした社会的な交流や、他人のフィードバックを受けて、社会的な状況で試行錯誤することは、今のところデジタル化できていません。
だから、本当の新しいアイデアは、アナログの世界にとどまりつづけるのです。
この考え方は、私たちが新しい考えを生み出すとき、大きな強みになります。
椅子:コンセプト思考の例1
この特別な考え方を、「コンセプト思考(concept thinking)」または、「分類された思考(categorized thinking)と呼んでいます。
例をお見せしましょう。
ここにあるのは、全部椅子だと、皆さんは思うでしょう。青いボールも合わせて。
これが、脳がコンピュータと違うところです。
これはディープラーニングと呼ばれるもので、コンピュータに同じ結果を出させるためには、膨大な数の椅子のイメージを与え、自己学習させなければなりません。
すると、コンピュータはすべてのデータを分析して、98%の割合で、「足が4つで、座るところ、もたれるところがあるもの」を椅子だとみなします。
人間はそんなことはしません。
椅子に特別な形があるわけではなく、座ることができるものが椅子だと思っています。
いったんこの理解ができると、椅子はそこら中に見つかるし、新しい椅子や新しいデザインを作ることができます。
コンピュータは学習しますが、私たちは理解するのです。
ディープラーニングはすばらしいことですが、もっとすばらしいのは深い理解です。
何かを学習すると、学習したものを捨てることもできます。
しかし、何かを理解したあと、その理解する前に戻ることはできません。なぜなら、理解するとは、情報の処理の仕方を変えることだから。
脳にとって、処理とアウトプットは同じことであり、私たちは、その場で、瞬時に理解します。
森と家族:コンセプト思考の例2
これが花だとすると、これは木であり、これは森や庭になります。
花としたものが、子供だとすると、木は大人で、森は家族になります。
データは同じですが、情報は異なっています。
「理解する」とは、その情報を使って、自分の知識を変えることです。
人なら簡単にできることですが、今のところ、これはコンピュータにはできません。
煙探知器とBrexit:コンセプト思考の例3
数週間前、隣に住む2歳の子供が、うちにやってきて、言いました。
「あ、煙探知器がある」と。
この子の親は、この子に煙探知器の写真を何枚も見せて、煙探知器を教えたわけではありません。
この子は、「煙探知器」という言葉を、数回聞いただけでしょう。しかし、それだけで、煙探知器のことを理解したのです。
実験から、子供たちは、新しいもの、たとえば、おもちゃ、言葉、動物などを、初見で判断できるとわかっています。
皆さんもそうですよ。
Brexit(ブレクジット)という言葉も、ニュースで、2~3回聞けばわかります。
いったん意味がわかれば、SwexitやFraxit、Itaxitという言葉の意味もわかるでしょう。
今まで聞いたことがないのに、初めて見たときにわかるのです。
パソコンのモニターにうつる悲しい顔[ 🙁 ]も、うれしい顔[ 🙂 ]と50%しか違わないのに、私たちにとっては、100%違うものです。
私たちの脳は、こんなふうにパワフルなのです。そのパワーを生かして、クリエイティブで独創的になる方法をお教えしましょう。
前提:パソコンの真似をしない
まず、大前提として、パソコンのように仕事をしようとしないでください。
よりたくさん働くことや、速く処理すること、効率よく問題を解決することが重要だと考えている人がたくさんいますが、それは機械がやっていることです。
効率的な処理は、いずれ、機械のアルゴリズムにとって変わられるでしょう。
機械ができないのは、非効率な思考をして、新しいアイデアにまとめたり、物事を理解したりすることです。
1.休息をとる
私たちは休憩をとったり、睡眠をとったりして、問題にフォーカスするのをやめ、気を散らせます。
一見、非効率的に見えますが、時に、こうすることは、とても効果的です。
一歩下がって、同じものを違う文脈で見るのですから。
データだけを深堀りすると、データや情報に頼ってしまい、全体像を理解することができません。
2.退屈なことをする
人がいいアイデアを思いつくのは、シャワーをあびているときや、スポーツをしているとき、運転や、掃除、皿洗いをしているときなどです。
退屈なことや、何かを自動的にやっているとき、頭の中がクリアになり、新しいアイデアを思いつきます。
問題やタスクに熱心に取り組んだあと、一歩下がって、全然関係のないことをしてください。
リラックスするのです。
古代ローマでは、こうすることを、「ミューズにキスをされる」と表現しました。
3.エコーチェンバーを避ける
今は、自分にとって都合のいい、刺激のない意見に取り囲まれることが容易にできる時代です。
そもそも、私たちは、自分とは違う意見を好みません。
フェイスブックのアルゴリズムは、投稿をフィルタリングして、私たちに耳当たりのいいものだけ表示します。
友人のほとんどは、自分と同じ見方をする人です。
自分が好む意見がのっている新聞や、自分の信念を裏付けてくれるメディアやテレビ、ラジオ番組を好んで視聴し、反対意見にはふれません。
こういうことをすると、エコーチェンバーができあがります。
この逆をやらないと、新しいアイデアを思いつくことができません。
時々、自分を挑発してください。意見が異なるものを読み、友達と生産的な議論をし、別の側から、物事を見るようにします。
アルゴリズムのように考えてはいけません。
自分の意見を裏付けてもらおうとせず、その意見に異議をとなえる意見にふれましょう。
いつもの思考パターンをこわしてください。
まとめ
次に伝えるべき素晴らしいアイデアは、私たちの脳から生まれます。私たちが賢くて、効率がよくて、コンピュータより知能があるからではありません。
その逆だからです。
私たちは、遅く、非合理で、不完全です。
だからこそ、私たちは、世界を分析するのではなく、理解します。
これこそが、人の最高の強みです。このちからに感謝し誇りをもちましょう。
それこそが、人間を人間たらしめているのですから。
////抄訳ここまで////
単語の意味など
give rise to ~を起こす
echo chamber エコーチェンバー、自分と同じ意見が、まわりから返ってくる場所や環境
ヘニング・ベックさんの著書です(2021年4月13日発売)
ベックさんはドイツの方のようで、ドイツ語版ですでに出ている本もあります。
思考に関するほかのプレゼン
思考というエネルギーをうまく使って人生の質をあげる(TED)
ワーキングメモリ(作業記憶)をうまく使って目の前のゴールを達成する(TED)
脳について知るべき、1つのこと。それは、あなたの人生を変えます(TED)
パソコンと同じ土俵にあがらない
人間は生体でアナログな存在であり、機械で、情報をデジタル処理するコンピュータとは全く違います。
まあ、あたりまえのことだし、誰でも知っていることです。
しかし、パソコンを相手にしていると、「パソコンのようにしなくちゃだめなんだ、そういうふうに働く人のほうがすぐれている」、という錯覚を持つことがあります。
マルチタスキングがもてはやされるのは、そのせいだと思います。
スマホでSNSを見ていると、タイムラインがどんどん流れて尽きることがありません。
SNSで、機械が処理している情報をえんえんと見たり、全部に「いいね」を押そうと奮闘するのは、コンピュータのように生きることです。
クラウド上にあるゲームをしているときも同じですね。
相手はコンピュータなので、いつまでも、ずっとゲームをし続けます。
人間の脳は新しいことが好きだから、新しいもの見たさに、長々とスマホを見てしまいますが、実は、こうすることは、自分の脳のパワーを著しくそこなうことです。
ほどほどにコンピュータにつきあったほうが、人間らしく生きられるし、おもしろいアイデアも思いつくのです。
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先週につづいて、思考に関する動画をお届けしました。
「思考」とか、「脳がどうたら」という記事を書くと、アクセスがガクンと減るので、このブログの読者にはあまり求められていないようです。
しかし、思考しているから、自分がいるので、重要なトピックだと思います。