ページに広告が含まれる場合があります。
変化が激しく、先が見えない世の中で生きていくコツを教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、How to navigate our uncertain future (不確かな未来をどうやって渡っていくか)
フューチャリストで、マインドセットのアドバイザー、スピーカー、作家の April Rinne (エイプリル・リニー)さんの講演です。
フラックスマインドセット
このトークで、リニーさんは、変化が激しく、先の予測が難しい世界で生きていくためには、フラックスマインドセット(flux mindset)が必要である、と言います。
フラックスマインドセットは、すべての変化を脅威ではなく、機会だと捉える考え方・態度です。
収録は2019年の11月。プレゼンの長さは17分。自動生成の英語字幕あり。
☆TEDの記事の説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
英語はわかりやすいほうだと思います。
目まぐるしく変化する時代
あまりにもたくさんのことが、ものすごいスピードで変化していると感じませんか?
ついていくのがどんどん大変になっている、と。
実際、世界の90%のデータは、過去2年に作られたものです。
自分が何を勉強すべきか、子供に何を勉強させるべきか悩んでしまいますね。大学を出たからといっていい仕事につけるとは限りませんから。
今、重要だと思われているスキルの35%が、5年のうちに、そうではなくなります。
自動化が大勢の人々の仕事に取ってかわっています。
老後はどうなるのかわかりません。 スマホのアプリでさえ、どんどん変わっていきます。
私自身、毎日、新しい情報の波の中で、おぼれそうになることがあります。
「変わらずに起こっているのは変わることだけ」という使い古された言葉に納得してしまう日々です。
あまりにたくさんのことが、どんどん変わってしまうので、未来を予測し、コントロールするのがむずかしいのです。
私はこの状態を、フラックス(flux 絶え間のない変化)と呼んでいます。
きょうは、この状況にうまく対応する方法をお話ししますが、まず、どうしてこうなったのかお話しします。
昔は固定された世界だった
過去の200~300年の間、私たちは、固定された世界(fixed world)で生きていました。
ずっと続き、予測可能で、コントロールできた世界です。少なくとも、コントロールできると信じられていました。
政治の世界では、境界を作り、人々や文化を分けていました。ビジネスの世界では、大きな工場を作り、永遠に続くビジョンをかかげていました。
企業には、トップダウン方式の階層があり、決まりきったやり方で動いていました。
家族や親族の結びつきが強く、靴屋の家に生まれたら、靴屋になり、銀行家の家に生まれたら銀行家になりました。
運よく家族とは違う仕事につけたら、生涯、その仕事を続けました。
何か変化が起きたとき、その変化が根付くまでに時間がかかります。最初の産業革命の影響がしっかり行き渡るまで100年かかりました。5世代です。
この時代に生きた人は、どんなことにも、固定化したマインドセットを持っていました。
自分たちも世界も変わらない、という考え方です。
今は、常に変わる世界
しかし現在は、常に変わるフラックスの時代。かつてないほど物事が早く変わるため、ついていけないのも当然です。
国家も変化しています。
世界でもっとも人口の多い10の団体のうち、国家は2つだけで、ほかはデジタルプラットフォームです。
国境も変化しています。確かに、物理的な国境の壁は増えました。第二次世界大戦後には壁は7つありましたが、現在77あります。しかし、テクノロジーが壁を越えています。
気候も変化しています。気温は上がり氷河は溶け、環境危機が近づいていると感じます。ただ、いつ決定的なことが起こるのかはわかりません。
ビジネスも流動しています。
企業の平均寿命が1950年代の60年から、現在の20年以下に変化しました。CEOの在職期間も短くなっています。
人々の期待も流動しています。上昇すると同時に落ちます。
テクノロジーが発展し、かつてないほどたくさんのことが達成できる一方で、本当の意味でサバイバルするための備えがなくなっています。
スマホが生まれてから、まだたったの12年なのに、生活のあらゆる面を変え、私たちは、このツールにかなり依存しています。
多くの人々にとって、将来も流動的です。予想できるライフスタイルなどもうありません。
種(しゅ)も変化しています。
問題は、数々の変化だけでなく、そのスピードです。すべてが同時に起こり、そのスピードはどんどん早くなっています。
これが、現在、私たちの生きている世界なのです。
その結果、私たちは、不安になり、今日の心配をし、未来を恐れます。先がわからなければわからないほど、今あるもの(この先にはなさそうなもの)に執着します。
先が見えなくなった体験
25年前の夏、私は英国で大学の1年目を終え、これから、ヨーロッパを旅行し、博士号を取ろうと準備していました。
ある時、姉から電話がかかってきました。「ひどいことが起きたのよ。交通事故でパパとママが死んでしまった。すぐに家に帰ってきて」。
私は打ちのめされました。この瞬間、私が思い描いていた未来は消えました。私の人生がフラックスになったのです。
25年後、私たち全員が、永久でないことだけが永久である世界に生きています。仕事、子供たち、預金残高、ニュースなど。
両親が亡くなったとき、将来、TEDトークで、この日の話をするなんて私は夢にも思っていませんでした。過去ではなく、未来を手放すことがどんな意味を持つのかも、全然わかっていませんでした。
私は未来を手放す必要がありました。自分の思い描いていた未来であり、両親も賛同していた未来を。
手放しているプロセスに、私は知らないうちにスーパーパワーの種(たね)を植えていました。
昔は、予測しコントロールする能力が求められており、不確かであることを受け入れるのは弱いことだと考えられていました。
私の両親の死は、現在私たちが恐れていることの典型です。
両親を失ったことは大変なことです。つらくて悲しい体験でした。
ですが、もし私が、未来や、死、ゴール、社会が期待していること、自分が大好きなものをコントロールできると信じ続けていたら、今、この場にはいませんでした。
もうここにはない現実に執着するたくさんの人を見ているうちに、変わらないと思っているものを手放すことが、よい未来を生きるのに必要だと思うようになりました。
そうできるようになるために、私がフラックスマインドセットと呼んでいる3つの考え方を提案します。
常に変化する世界で、どんどん成長して生きていく能力です。
1.違う文化を見る
最初のアドバイスは、ほかの文化を見ることです。
自分とは違う文化を知ることで、永遠でないことや、変化、フラックスに関しての洞察がたくさん得られます。
私の親友でもあった父は地理の教師でした。台所のテーブルの上にあった私のランチョンマットには世界地図がついていて、毎朝、朝食を食べるとき、父と国の名前を当てるゲームをしました。
いろいろな国の首都を覚えるうちに、私はいつか、そこへ行ってみたいと願うようになりました。
父は、「世界はとても広い、行って見てきてごらん。きみの質問の答えが見つかるかも知れない」とよく言っていました。
父が亡くなって数年後、実際に、いろいろな外国を訪れました。
エチオピアで日の出を見たとき、あちこちに父の存在を感じました。
遊牧民の生き方
モンゴルでは、父のアドバイスに納得しました。
モンゴルは遊牧民の国。ほとんどの国民が年に3回、季節に合わせて、パオと呼ばれるテントのような家をたたみ、移動してまた組み立て、暮らしています。彼らは、生涯こういう生活を続けます。
国家単位で、永続しない世界で生きているのです。
こういう生き方をしているからといって、モンゴルの人が、心配して恐れているわけではありません。
むしろ、このライフスタイルは、彼らを強くし、文化を継続させています。
遊牧民の生活は簡単だとか、それがすべての答えなんだとは言っていません。
この生き方は変化に対応するマインドセットなのです。物事をコントロールしようと執着しないし、うまく自然に対応しています。
フラックスな世界では、この考え方はとても参考になります。
人々が放浪するのは、モンゴルだけではなく、インド、アンデス、南太平洋、アフリカなど複数見られます。
彼らから学びましょう。
2.周辺視野を広げる
2つめのアドバイスは周辺視野を広げることです。文字通りに、そして、比喩的にも。
周辺視野は、直接見える視界の外側にあるものを見る能力です。
それは、今見ていないものに意識を向けること。
不安を感じているとき、周辺視野が狭くなります。これを広げれば、不安な気持ちがやわらぐのです。
周辺視野を広げることは、自分で練習できます。
やってみましょう。今、皆さんは私を見ています。横を見ずに、右側に座っている人の服の色を当ててください。
もう1つ。両手の親指をそれぞれ耳の裏側にあてて、手を見えないところまで持っていきます。指を動かしながら、少しだけ、指が見えるところまで、手を戻しましょう。
これが、周辺視野です。
これまで見えなかったものに気づきませんか? ほんの少しでも、見えなかったものに意識が向きませんか?
親を亡くしたとき、私の視野はとても狭く、前が見えませんでした。この状態から立ち直るために、私は、人生の周辺視野を広げる必要があったのです。
両親が死んだときより、今のほうが、家族と呼べる人が増えましたが、これは両親が生きていたら起こらなかったと思います。
両親を亡くした代わりに、私はコミュニティを得ました。自分が見える世界から外に出て、そこにあるものや、そこにいる人に意識を向けたからです。
視野を広げて、見方を変えると、新しい人間関係や、より創造的なキャリアが見えます。
3.未来を手放す
3つ目のアドバイスは未来を手放せるようにすることです。
手放すといえば、いつも、過去を手放す話になります。
しかし、重要なのは未来を手放すことです。
たとえ未来にわくわくしていても、不確かなことでがいっぱいで、確かなことは何もありません。
たくさんの人が、未来を恐れていますが、そのせいで、立ち止まってしまうのです。
コントロールできない状況の中で、止まって、まひして、囚われています。
逆説的ですが、常に変化する社会で、未来を手放せるかどうかが、どんどん成長できるか、はたまた、崩れ落ちてしまうかを決めます。
ジョセフ・キャンベルは、
The cave you fear to enter holds the treasure you seek.(あなたが入るのを怖がっている洞窟に、あなたの探している宝物があります)。
と言いました。
自分の子供には、よくある道ではなく、もっと有意義な新しい道に進むのを助けたいと、親たちが私に相談にきます。ビジネスマンは不確かなことばかりの未来を、どうやって進んでいったらいいのか聞きにきます。
このような人たちに、フラックスマインドセットを養うことをおすすめしたいのです。
快適に感じている状況が変化するのは、人生の大きな魔法で謎なのだ、と受け入れるのです。
私は、悲しいできごとから、未来を手放すことを学んだとき、いやおうなく、フラックスマインドセットに向かいました。
ですが、今日私が言いたいのは、べつに悲しいできごとがなくても、このマインドセットになるべきだということです。
そうするのは、100%可能だし、成長するのに必要ですが、それ以上に、とても楽しいことです。
手放すのはあきらめるとか、失敗するという意味ではありません。
白旗をあげて降参するのではなく、ヨガの原則の1つである、アパリグラハです。
執着しないこと。貪欲にならないこと。
変化を受け入れ、手放すことができるようになれば、それはとても強いパワーとなります。この世界におけるスーパーパワーなのです。
今、この会場に、父が私たちといるのを感じます。3歳の頃の私に、そして、ほかのどんな子どもたちにも、フラックスマインドセットを教えたいと思います。
ゴールを持ち、進化しながら進むことを。
たくさんの文化にふれ、周辺視野を広げる練習をしてほしい。フラックスマインドセットこそが、あなたのスーパーパワーなのだと伝えたいのです。
だから皆さんも、今すぐ、手放してください。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
Holy Grail 聖杯、キリストが最後の晩餐で使ったとされる杯。転じて、重要で強く求められるもの、目標や目的、究極のアイテム
peripheral vision 周辺視野
Joseph Campbell (1904-1987) ジョゼフ・キャンベル アメリカの神話学者
aparigraha 不貧(ふとん)、むさぼらない、もっともっとと欲しがらない、欲張らない、執着しない、ヨガの教えの1つ
リニーさんの本です。
変化や未来に関するほかのプレゼン
人は変わり続ける。未来の自分に対する心理:ダン・ギルバート(TED)
人生において運が果たす役割とは?:バリー・シュワルツ(TED)
先のことをコントロールしようとしない
先日、職場が異動して部下が増え、先の心配をしている方の相談に回答しました。
この方以外にも、先のことを先回りして心配して、ひとりで不安になっている方からよく相談メールをいただきます。
そういう人は、ぜひフラックスマインドセットを採用してください。
フラックスマインドセットのコアになる行動が本には8つ書かれていますが、ここに訳しておきます。
1.ゆっくり進む
2.見えていないものを見る
3.迷う(外に出て迷わないと道がみつからない)
4.信頼から始める
5.自分にとっての「充分」を知る
6.キャリアのポートフォリオを作る(キャリアを追い求めようとするのではなく、ポートフォリオを作っていると考える)
7.人間らしく生き、他の人のためになることする
8.未来を手放す
特に重要なのは、未来を手放すことです。
どんなに考えても、自分が思い描いているとおりには絶対なりませんから、「どうなってもべつにいい。私はそのときちゃんと対応できる」と考えておくほうがストレスになりません。