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自分や他の人の行動を変えたいとき、方法を教えてくれるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、How to motivate yourself to change your behavior(行動を変える気にさせる方法)。プレゼンターは、神経科学者の Tali Sharot(ターリ・シャーロット)さんです。
やる気を出すには? TEDの説明
What does make us change our actions? Tali Sharot reveals three ingredients to doing what’s good for yourself.
何が私たちの行動を変えるのでしょうか? ターリ・シャーロットは、自分のためになることをする3つのコツを紹介します。
収録は2014年の秋、動画の長さは17分、英語を含め、9ヶ国語の字幕があります。日本語の字幕はありません。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
わかりやすいプレゼンですね。
警告や脅しはさほど効果がない
誰でも、変えたいと思う行動があります。身の回りに、いいほうに行動を変えてあげたいと思う人もいるでしょう。子供や配偶者、同僚など。
新しい研究からわかった、人の行動を変えるときに重要な鍵をシェアしますね。
その話をする前に、ふだん私たちが、行動を変えたいときよく使う戦略を考えてみましょう。
おやつを食べるのをやめようと思ったとします。このとき、自分にどんなふうに言うでしょうか?
大半の人は、「気をつけて。太っちゃうよ」と心の中でつぶやきます。
子供に喫煙をやめさせたいときは、「たばこを吸うと死んじゃうよ」と言うでしょう。
つまり、自分や他の人を怖がらせて、行動を変えようとしています。
健康を促進するためのキャンペーンでも、警告や脅しがよく使われます。
というのも、「人を怖がらせて、恐怖を引き起こせば、行動が変わる」と、私たちは、思い込んでいるからです。まあ、ふつうの考え方ですね。
しかし、実際は、警告は、行動をそんなに変えないということが科学でわかっています。
警告が効かない理由
タバコの箱に恐ろしい写真をつけても、喫煙者はタバコをやめません。ある研究によると、こうした写真を見たあと、喫煙をやめる優先度が下がります。
警告や脅しには全く効果がないとは言いません。けれども、ほんの少ししか効果がないのです。
なぜでしょう? なぜ、私たちは、警告に抵抗するのでしょうか?
動物のことを考えてみてください。
動物を怖がらせたら、その動物は恐怖でかたまってしまうか、逃げます。あまり闘おうとはしません。
人間も同じで、何か恐ろしいことがあると、シャットダウンして、ネガティブな感情を取り除こうとします。そのとき、正当化をします。
たとえば、「おじいちゃんは喫煙者だったけど、90才まで生きた。私は、長寿の遺伝子を受け継いでいるから、何の心配もいらない」というように。
正当化するプロセスにおいて、前より、行動を変えたくないという気持ちが強くなります。だから、警告はかえって逆効果になるときがあるのです。
人は嫌な現実を無視しようとする
私たちは、わざと現実を見ようとしないときもあります。
株価を例にあげましょう。
人々が、自分のアカウントにログインして株価の動きをよく見るのは…、売り買いをするためではなく、チェックするために見るのは、株価があがっているときです。
ポジティブな情報を見ると気分がいいので、何度も見ます。逆に株価が低いときは、人はログインしようとしません。
ネガティブな情報を見ると気分が悪くなるので、無視しようとするのです。
2008年に株価が大暴落したとき、人々はあわててログインしましたが、少しばかり遅すぎましたね。
この傾向は金融に限ったことでなく、人生のいろいろな面で起きています。
都合のいい未来を思い描く
よくない兆候やまずい行動があると気づいていて、このままだと、よくない結果になりそうな状況にいても、私たちは「でも、そうはならないんじゃないか」と思います。
いい結果になると思わせてくれる情報だけを集めながら。
結果を変えるため、行動できるタイミングがあっても、そうするのはエネルギーが必要なので、「起こるかどうかわからないことを心配してもしかたないよね。きっと起こらないだろうし」と考えるのです。
大事(おおごと)になってから、行動しても、遅すぎるのです。
私たちのラボでは、どんな情報があれば、人々が行動するのか調べました。
悪い未来を予測する実験
100人ほどの人を集めて、80種類の、将来自分の身に起こるかもしれないネガティブなできごとについて、それぞれ、どの程度の割合で起こるのか予測してもらいました。
たとえば、私があなたにこう聞きます。
「将来、あなたが難聴になる可能性はどのぐらいだと思いますか?」
あなたは、50%だと思いました。
その後、私は違う意見をもつ2人の専門家の話を聞かせます。
専門家Aは、「あなたのような人は、40%だと思いますよ」と、将来に希望をもたせる意見を言います。
専門家Bは、「あなたのような人は、60%だと思いますよ」と、悲観的な意見を言います。
専門家の意見を聞いても、自分の意見は変わらないはずですよね?
ところが、人は、より好ましいほうに信念を変える傾向があるのです。つまり、ポジティブな情報により耳を傾けます。
誰でも、聞きたい情報に耳を傾ける
この研究は大学生を対象に行われました。
「ああ、大学生は妄想が激しいからな」。こう、あなたは言うかもしれません。
確かに、年齢を重ねれば、私たちはより賢くなっていきます。
そこで、この結果は、年齢に関係あるのかどうか、調べてみました。
10才から80才の人を集めて調べたところ、どんな年代の人も、自分が聞きたくない情報より、聞きたい情報を取り入れるとわかりました。
好ましいニュース(聞きたい情報)から学ぶ傾向は、生涯を通じて変わりませんが、ネガティブなニュース(聞きたくない情報)から学ぶ傾向は、年齢によって変化します。
子供やティーンエイジャーは、悪いニュースから学ぶことが一番できず、年齢があがるにつれて、よくなっていきます。しかし、40才ごろになると、また悪くなります。
子供やティーンエイジャー、そして高齢者というもっとも弱い立場にある人は、、警告から、正確に学ぶことができないのです。
しかし、自分が聞きたい情報をより取り入れる傾向は、年齢を問いません。
つまり、こんな見方をしてしまうわけですね。
教師、メンター、雇用主がやってしまう間違いは、人々が容易に持ち続ける、ポジティブなイメージに働きかけるのではなく、真実を映し出す曇りのない鏡を置くことです。
教師たちは、人々に、「鏡に映るあなたの姿はどんどん悪くなっていきますよ」と言うわけですが、この方法はうまくいきません。
人の脳は、本人が満足できる姿になるまで、必死で、現実のイメージを歪めようとするからです。
脳の傾向に沿うやり方
脳の傾向に逆らうのをやめて、その傾向に沿うようにしたら、何が起きるでしょうか?
手洗いを例にあげましょう。
手を洗うことは感染防止に一番効果があると皆、わかっています。特に病院では手洗いは重要です。
合衆国のある病院にカメラを設置して、医療スタッフが病室に入る前と後に、どのぐらいの頻度で、手を洗うか調べてみました。
スタッフはカメラがあることを知っています。それでも、病室に入る前に手を洗ったのは、10人のうち1人です。
ここでちょっとした介入をしました。手洗いの状況を表示する電光掲示板を置いたのです。
手を洗うたびに、掲示板にある、そのスタッフの数字が伸び、いまのシフトで、自分が洗う率や、週単位のスタッフの手洗いの率が表示されます。
この表示を始めたら、手洗いの指示に従う率が90%に伸びました。びっくりするほどです。
リサーチャーも驚いて、同じ病院の別の部署でも同じことをしたら、やはり同じ結果になりました。
なぜ、この方法がここまでうまくいったのでしょうか?
将来、病気などの悪いことが起きると警告する代わりに、マインドや行動を変えるのに効果的な3つの原則を使ったからうまくいきました。
3つの原則を説明しますね。
1.社会的な動機づけ
1つ目は、社会的な誘因です。医療スタッフは、シフトでの手洗い率や、その週の率を見ることから、ほかのスタッフがどうしているのかわかりました。
私たちは、社会的な生きものなので、ほかの人がどうしているか、すごく気にしています。他人と同じことをしたいし、できれば、他人より上をいきたいと思うのです。
人々により税金を払ってもらうため、イギリス政府はこの方法を使いました。
税金を払い忘れている人に、税金を払うことがいかに重要か強調している手紙を出しても効果がありません。
そこで、政府は、こんな1文を加えました。「イギリス人の10人のうち9人は、期限までに税金を払っています」。
この1文を加えたら、従う率が15%上がり、イギリス政府に、56億ポンド(現在のレートで、およそ8兆4500億円)余計に、税収をもたらしました。
2.すぐに得られるごほうび
2つ目の原則は、すぐに得られる報酬です。
手を洗えば、すぐに掲示板の数字が伸びます。それを見るのがうれしくて、スタッフは手洗いをしました。
あらかじめ、数字が伸びることを知っていたので、やりたくないこともやれたのです。
私たちは、すぐに得られる報酬に、より価値を置いています。
人は、将来もらえる報酬より、今もらえる報酬を選びます。
「それは、先のことを考えていないからだ」、と考えがちですが、そうではありません。
私たちは、将来のことを考えていますよね? 将来も、幸せで健康でいたい、成功していたいと思っています。
ただ、将来はあまりに先のことです。
きょうまずいことをしても、遠い将来には、大丈夫になっているかもしれないし、そもそもとっくに死んでいるかもしれません。
だから、未来で、手に入るかもしれないものより、今確かにここにある飲み物やステーキを選びます。
これは、まった不合理な行動とも言えません。将来の不確かなことではなく、今の確かなものを選んでいるわけですから。
将来のためになる行動に今ごほうびを与えると
将来的に自分のためになる行動をしたときに、今、報酬を与えたらどうなるでしょうか?
数々の研究によれば、今すぐ報酬を与えると、より禁煙や、運動をする率があがり、その効果は、少なくとも6ヶ月続きます。
タバコを吸わないことや、運動をすることがごほうびに紐付けされて、そのうちそれが習慣になり、ライフスタイルになるからです。
自分や他の人が、将来の本人のためになることをしたとき、すぐに報酬を与えれば、将来につながる橋をかけることができます。
3.進捗状況の確認
3つめの原則は、進歩している様子をモニターすることです。
電光掲示板により、スタッフは、自分のパフォーマンスを向上させることに意識を向けることができました。
私たちが行った研究からわかったことですが、脳は未来に関するポジティブな情報を、より効率的に処理します。悲観的な情報についてはそれほどでもありません。
もし、人々の注意を引きたかったら、衰退ではなく進歩にフォーカスするべきなのです。
たとえば、子供に喫煙をやめさせたかったら、「タバコをやめたら、もっと運動が得意になるよ」と言います。
悪くなることではなく、よくなることに光をあてます。
やる気にさせる請求書
最後に、ちょっとしたエピソードを紹介しましょう。
数週間前のこと、帰宅したら、電気代の請求書が冷蔵庫に貼ってありました。
ふだん請求書を貼ることなんていっさいしないのでびっくりしました。なぜ、突然、夫は、請求書を冷蔵庫に貼ったのか?
よく見ると、その請求書がしようとしていることがわかりました。私に、もっと効率的に電気を使ってほしいという意図が見てとれます。
どうやって?
社会的な動機づけ、今すぐの報酬、そして、プロセスの可視化です。
グレー(筆子註:画像ではピンクに見えます)のグラフは、近所の人の消費電力の平均です。青いのが私の使用量。緑色は、もっとも効率的に使っている人の使用量です。
これを見て、すぐ思ったことは、「私は、平均よりちょっといいわ」です。
ほんのちょっとですが、平均より好成績です。夫も同じ反応をしました。私は「緑の数値に近づきたい」とも思いました。
さらに、ニコニコマーク(スマイリーフェイス)もついています。
このマークが、今すぐもらえる報酬です。このマークが、「よくできました」と言っており、これがあるから、この請求書を冷蔵庫に貼り付けたくなるのです。
今は1つしかニコニコマークがありませんが、2つにする可能性も見えます。
つまり進歩するチャンスがあります。この請求書は1年を通して、私が、どれだけ進歩したか見せてくれるのです。
もう1つ、この請求書がもたらしているものがあります。それは、自分でコントロールしている感覚です。
自分が電気の使用をコントロールしていると思わせてくれます。
これは人に行動を変えさせたいとき、とても重要なことです。
脳は、常に、状況をコントロールしようとしていますから。
人にコントロールしている感覚を与えることは、やる気を引き出すうえでとても重要です。
まとめ
リスクを伝える必要はないとか、万能の解決策があると言っているのではありません。
ですが、もし変化を起こすことを動機づけしたいなら、いま使っている方法を見直したほうがいい、と言いたいのです。
不健康になるとか、お金をなくすという恐怖を強調し、警告や脅しをしても、行動は引き出せません。
代わりに、何かを得られるとわくわくさせれば、行動を引き出せます。
自分や他の人の行動を変えたいとき、このポジティブな戦略をつかってください。その方法は、進歩を求める人間の傾向に合っています。
//// 省略ここまで ////
単語の意味など
put one’s head in the sand 現実(困難や、差し迫る危険)を無視する、見ないことにする
compliance (要求、命令などに)従うこと
t-bone T字形に骨のついたステーキ
以前、ターリ・シャーロットさんの別のプレゼンも記事にしています⇒楽観主義バイアスを知って、よりよい人生を生きる(TED)
こちらはシャーロットさんの著書です。
ニコニコマークがついている電気代の請求書については、こちらのプレゼンでも出てきます。
ニューロマーケティングとは?:消費者の決断に関する新しい科学(TED)
やる気に関するほかのプレゼン
成功すると幸せになるのではなく、幸せだから成功する~ショーン・エイカー(TED)
スーパーマリオ効果 – もっとたくさんのことを学べるように脳をうまくだます(TED)
時間がないんじゃなくてやる気がないだけ。大事なことに時間を使う方法(TED)
自分ひとりでやる片付け
5月になり、新たに30日間チャレンジを始めている人も多いと思うので、行動を変えたいとき参考になるスピーチを紹介しました。
内容をまとめると、
1.行動を変える気にさせるためには、脅しや警告はたいして効果がない。
2.行動を引き出すのに効果的なのは、1)社会的な動機づけ、2)今すぐごほうびを与えること、3)プロセスの確認である。
こうなります。
部屋を片付けたいとき、断捨離セミナーや、お片付けトレーニングコース(?)、片付け動画レッスンなどに参加すると、3つの原則がすべて揃っているので、うまくいきやすい、と言えます。
社会的誘因は、コミュニティのほかのメンバーの行動と、その行動の報告、
今すぐもらえるごほうびは、トレーナーの励ましや、シールやポイント(そういうのがあるのかどうか知りませんが)、
プロセスの確認も、まともなトレーニングコースならば、できるようになっているはずです。
語学アプリにも、こうしたものがそろっているでしょう。
しかし、脅しがあまり効かないことや、動画に出てきた、やる気にさせる3つの原則を知っていれば、べつに、高いお金を出して、学校みたいなところに参加しなくても、自分で自分の行動を促すことができます。
むしろ、トレーニングコースみたいなものに入ってしまうと、自分でコントロールしている感覚が希薄になります。
「人に断捨離をやらされている」と思ってしまうのです。
社会的動機づけも、うまく働きかけるときと、逆効果のときがあります。
そのコミュニティに参加している人の動機はさまざまで、皆が皆、そのコミュニティと、各メンバーの成功を願っているわけではありませんから。
というわけで、自分ひとりでも、充分片付けはできるので、今回紹介したトークや、以前紹介したトークを参考にしつつ、毎日、少しずつ片付けて、スッキリ空間を手に入れてください。
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脅しや警告を使うのは、足りないマインドに働きかけることなので、やはり、たっぷりあるマインドで、生きていたほうが何事もうまくいくいと思います。
今回のトークの内容は、汚部屋や実家の片付けのみならず、貯金や、買い物習慣を変えること、その他やりたいこと何にでも使える方法なので、いろいろ応用してみてくださいね。