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今度こそ片付けよう、貯金を始めよう、運動をしよう。
いつもそう思っているのに、なかなか始められない人の参考になるTEDトークを紹介します。
タイトルは、3 reasons you aren’t doing what you say you will do(やります、と言ったことをあなたがやれない3つの理由)。
講演者は、認知心理学者のAmanda Crowell(アマンダ・クロウエル)さんです。
やると言うのにやらない理由:TEDの説明
Amanda explores how to move beyond mindset-driven defensive failure and into productive failure to succeed at the problems you struggle with the most.
アマンダは、マインドセットのせいでしてしまう、『自己防衛的な失敗』を、『生産的な失敗』に変え、自分が一番苦労している問題の成功に近づく方法を説明します。
とてもユーモアのあるプレゼンだと思うのですが、会場の反応はさほどよくないですね。録音の仕方のせいでしょうか。
運動しない人だった私
私は、運動をしない人でした。活動的な趣味もなく、スポーツもしませんでした。
34歳になるまでずっと。
でも、乳児と2歳半の子供の育児で、腰が痛くなってしまい、もっと身体を強く、柔らかくしないと、自分がそうなりたいと思っている母親になれないと気づきました。
子どもたちを追いかけ回し、抱きあげてブランコに載せ、レゴをするために、床に座り込めるような母親です。
より強く、柔軟になるためには、運動するしかありません。
でも、私は運動するタイプではなかったのです。
こういうこと、誰にでもありますよね。
何かを変えて、こんな人になろうと思うことが。
自己防衛的な失敗
ずっとそう思っているのに、そうできず、何の進歩もないことがあります。この現象を私は、『自己防衛的な失敗(defensive failure)』と呼んでいます。
日曜に、配偶者にこう言います。「今週、私はジムに3回行くわ」。
ところが金曜日になっても、まだ1度もジムに行っていません。
不思議ですよね。
ジムに行くつもりだったのに、どうして行かないのか?
私は認知心理学者なので、3年かけて、この質問の答えを探し、そうできない理由は、私たちの心理にあるとわかりました。
3つの強力なマインドセットの壁のせいで、自己防衛的な失敗を繰り返してしまうんです。
どれか1つでもこんなマインドセットがあると、脳は、あなたが本当の失敗をしなくてすむようにします。
本当の失敗とは、やる、と言ったことを、すごくまずくやってしまうこと。そうしなくてすむように、脳が仕向けるので、まったく進歩しないのです。
3つのマインドセットを1つずつ見ていきましょう。
自分にはできないという思い込み
最初の壁は、心の奥底で、自分にはできないと思っていることです。
生まれつき才能のある人はやれるけど、私には才能がないからできないという心理。
運動を例にあげましょう。
運動を始めたとき、私は、自分はランナーにはなれないと決めつけました。
はじめて走ったとき、だぶだぶのヨガパンツをはいていたので、走り始めて2分もすると、パンツを持ち上げながら走ることになりました。
しかも、私はスマホを持っていました。ランニング用のアプリを見ながら走っていたから。
だから片手でパンツを持ち上げつつ、もう1つの手で電話をもってアプリを見ながら、よたよた走ることになったんです。高校のグラウンドで。
これは失敗ですよね。
何かを初めて試みて、うまくいかなかったのですから。
こう考えてしまうのが、できないと思うマインドセットです。
成長型マインドセットをもつ
生まれつきの才能が成功を決めると信じていると、いきなり失敗することは、大きなダメージとなります。あなたには、必要なものがないという証拠ですから。
でも、もし、キャロル・ドゥエックの言う、「成長型マインドセット(growth mindset)」があれば、最初の失敗に、そこまでダメージを受けません。
失敗は、自分がそれをやるべきではないという証拠ではなく、学ぶチャンスとなります。
というのも、成功の鍵は才能ではなく、努力ですから。時間をかけて努力することが成果や新しいものを生みだします。
「他の人には才能があり、自分には才能がない」という考え方を、「最初の失敗は、成功へのステップにすぎない」という考え方に変えれば、自己防衛的な失敗のサイクルから抜け出すことができます。
これは自分らしくないという思い込み
2つ目の壁となるマインドセットは、「自分のような人は、こんなことはしないのだ」という考え方です。
これは、アイデンティティ(自分が自分であるという自覚)によるものです。
私たちは、アイデンティティにこだわっています。ここまでアイデンティティが大事なのは、苦労して手にいれたものだからです。
どうやってアイデンティティが形成されるか見てみましょう。
人は、思春期(青年期)になると、アイデンティティをもちます。もちろん、その前にも、アイデンティティはあります。
しかしそれは、周囲の人の言うことをそのまま取り入れたものです。「ママが私はクリエイティブだと言った。そうよね」「パパが、僕は運動向きだと言う。そうだな」。こんなふうに。
しかし、思春期になると変わります。
自分は誰なのか、真剣に問いかけるようになります。その問いかけは社会的な枠組みのなかで行われます。
「僕はこんな人みたいなのかな」とか、「私は、あなたみたいな人なのかな」と、考えます。
他人のアイデンティティの切れ端を取り込んでて、どんなふうに感じるかしらべるのです。
たとえば、親に嘘をついて、学校をさぼってみたり、ものすごく濃いアイライナーを引いて、髪をまっくろに染め、部屋にとじこもって、エモミュージックを聞いたり。
まわりの人のアイデンティティを少しずつ取り入れます。これは、エリック・エリクソンの言う、『断片からなるアイデンティティ』(identity fracturing)で、居心地よくありません。
自分が誰かわかっていないので、自分自身と摩擦がたくさんおきます。
しかし、高校2年から4年(アメリカの高校はたいてい4年制)あたりになると、自分のためにならないアイデンティティの断片を手放していきます。
すると、学校をさぼる友だちや、フットボールチームの友人とはつきあわなくなるかもしれません。
このプロセスを、エリクソンは、『アイデンティティの統合』(identity cohesion)と呼んでいます。
「自分はこういう人間だ」という信念が固まります。
このように獲得したアイデンティティは、とても大事で、それをおびやかすことは、何もしたくないと思うのです。
私らしくないと思っていることをやるには?
コーチになった直後、私は、クライアントを見つけるのに苦労しました。
というのも、自分のことを、あくまでを人を助けるタイプで、宣伝したり、サービスを売ったりする人ではないと思っていたからです。
売り込みをするのは、自分らしくないと感じていました。自分らしくないことは絶対したくないと。
こうして人は、自己防衛的な失敗のサイクルに入り込みます。
「今月、毎週、ネットワーキングイベントに行こう」と決めても、その日が来ると、自分のアイデンティティがおびやかされます。そして、「疲れている」とか、「ずっと忙しかったから休憩するべきだ」などと言い訳をして行かないのです。
誰にもそういうことはあります。そして進歩しません。
もし、あなたもそうなら、同じことに取り組んでいる、自分と似ている人を探して、相談してみてください。
私は、自分と同じように、根っから人を助けるタイプで、なおかつ、自分のビジネスの宣伝をうまくやっている人を見つけて、その人から学ぶびました。
アイデンティティを損なわずに、うまくやる方法を学んだのです。
本当はやりたくない
壁になるマインドセットの3つ目は、心の奥底では、やりたくないと思っていることです。
そうしなければならないと思っているけれど、間違った理由から、そうすることに価値を見出しています。
物事に価値を感じるとき、2つのやり方があります。
1つは、「内在的な理由(intrinsic reasons)」です。自分の中からわきあがってくる理由。興味や好奇心があるか、長期的な希望や夢につながっているから、やりたいと思う気持ち。
もう1つは、外在的な理由「(extrinsic reasons)」です。「かっこいい人は皆やっているから」「こうすれば、母がよろこぶわ」とか、「人にすごいと思ってもらえるかも」という気持ち。
たとえば、「予算を守って、暮らすぞ」と思っていたとします。
仕事に行く日、いつもランチを買うのにずいぶんお金を使っているので、「もうランチは買わない。弁当を持っていく」と決めました。
ところがある日、キッチンのカウンターの上に、スマホと弁当を忘れてきました。
同僚に、「最悪だわ」と言ったら、同僚は「心配しないの。それはきっと宇宙からのサインよ。お昼はぱーっと何かおいしいものを食べに行きましょうよ」と答えました。
このとき、2つの選択があります。
友人とランチに行って、サンドイッチに25ドル使うか、自販機で、しょうもない2ドルのエナジーバーを買うか。どうしますか?
あなたが予算を守ろうと思っている理由によって選択が変わります。
婚約したばかりで、「そのうち家を建て、クリスマス・イブには、子どもたちと暖炉の火を見たい」という夢があるなら、自販機に行くでしょう。
「お金持ちは、みなに称賛される、称賛されるのはいいものよ」という気持ちで予算を守ろうとしていたら、友人とレストランに行く欲望に勝つことはできません。
この話は、あなたがやろうと思っていること、何にでもあてはまります。
やりたいと思っていることが、大変なことなら、やめたいと感じることは必ずあります。
こんなとき、そうする内在的な理由があれば、友人とレストランに行きたい欲望に負けず、やるべきことをやることに意識を向けることができます。
内在的な興味を引き出すには?
こんなときは、内在的な興味を引き出せばいいのです。
やりたいと思っていることに対して、興味や好奇心をもつ方法を見つけてください。
ブログや雑誌を読むことが役立ちます。
自発的な興味を見つけられないときは、たとえば、税金の申告をしなければならないときなどですが、こんなときは、紙にやりたいと思っていいること、長期的な夢や希望を書き、ふたつをしっかり線で結んでください。
そしてあきらめそうになったら、この紙を取り出して読みます。すると、内在的な興味に立ち返ることができます。
これが3つ目のマインドセットの壁をこわす方法です。
生産的な失敗に変える
以上の3つのマインドセットが1つでもあると、ゴールに向かって進むことに苦労します。何かをやろうとしているのに、これまでずっとできないでいるとしたら、3つとも揃っているかもしれません。
私と運動との関係がこれでした。
でも、最初の失敗を、「よりよくなるためのプロセス」だと受け入れ、競争心がない自分のような人でも、運動していることを認めたとき、俄然、運動の科学に興味がわいたのです。
こうして、私は、前に進むことができました。
「マインドセットを整えれば、すぐに成功する」とは言いません。それは違います。
ですが、自己防衛的な失敗を繰り返すことを、行動を伴う、洞察のある生産的な失敗に変えるべきなのです。
すると失敗しても、少しずつよくなっていきます。時間をかけて何度もやっているうちに、自分でも思いもよらなかったことをしている自分に気づきます。
私には本当にそんなことが起きました。
運動する人に変身した私
3年のあいだに、走り方を学び、必要な道具を手に入れました。
自転車の乗り方や、水泳も学びました。
そして、ある8月の日、トライアスロンをしたのです。自分でもびっくりしました。
その2ヶ月後、ハーフマラソンをしました。
一番、重要なことは、6歳になった息子を抱き上げることができるようになったこと。
運動神経がよかったからそうなったわけではありません。
こんな話をするのも、トライアスロンをした日は、私の人生のなかで、もっともエキサイティングだったから。こんなこと、私の物語にはなかったことで、起こり得ないことでした。
この日、気づいたのです。みなさんも、誰でも、望めばどんなものにでもなれると。
思考をクリアにして、必要なステップを取ってください。この2つをしさえすれば、もうあなたを止めるものは何もありません。
/// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
hard-won 苦労して手にいれた
emo music = emotional music エモ、感情的な音楽。心情を吐露するような歌詞をハードコア・パンクふうの音楽にのせて歌う。
bits and pieces こまごまとしたもの、小さな部分
Erik Erikson エリク・エリクソン(1902-1994)、ドイツ生まれで後にアメリカで研究した発達心理学者。アイデンティティの概念を作った人。発達段階の研究で有名。
キャロル・ドゥエックの成長型マインドセットに関するプレゼンはこちら⇒自分の能力を自分で見限ることの恐ろしさ、できると信じることの素晴らしさ(TED)
本もあります。
やりたいことをやるのに役立つ他のプレゼン
上手になりたいと思っていることをきっちり上達させる方法(TED)
自分で自分のコーチになろう(TED)
どうやって私は刑務所で読み書きと株取引を学んだのか?(TED)
ほかにもたくさんあります。ピンと来たプレゼンは、時間をあけて、何度も見ることをおすすめします。
思考をクリアにすることが大事
プレゼンの内容を簡単にまとめると、
やりたいことを始められず、進歩できないのは以下の3つのマインドセットのせいだ
1.才能がないとできないという思い込み
2.自分はそういうことをする人じゃないという思い込み
3.本当はやりたくない
3つのマインドセットがあると、『自己防衛のための失敗』を繰り返し、進歩できない。
それぞれのマインドセットをこわせば、前に進むことができる。その方法は
1.成長型マインドセットを採用する(自分は成長できると考える)
2.自分とよく似た人で、自分がやりたいことをしている人から学ぶ
3.内在的な興味を引き出す。それが難しいときは、将来の夢に今の行動が結びついていることを紙に書き、くじけそうになったら、その紙を見る
この3つをやると、たとえ失敗しても、それは、『生産的な失敗』だ。
生産的な失敗には、行動と洞察があるので、失敗しながらも続けていけば、進歩する。
思考をクリアにして、必要なステップをとれば、どんなもにもなれる。
こんな感じです。
どんなことにも使える方法なので、やりたいことがあるのに、前に進んでいないと苦しんでいる人は、ためしてください。
思考をクリアにするためには、ブレインダンプやモーニングページ、部屋の片付けなど、シンプルに暮らすことが役立ちます。
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マインドセットや考え方のくせは、プレゼンをいくつか見たり、ブログの記事何本か読んだり、本を数冊読んだりしただけでは変わりません。
そうした情報を得ているのは、ゆがんだ思考をもったままの自分(クリアな思考ができない自分)だからです。
そこで、ブログや本、プレゼンなどで勧められていることを実生活に取り入れて、体験して自ら気づくことが必要になってきます。
やってみて、「ああ、こういうことなのかな」と気づいても、何かのきっかけですぐに元に戻るので、前に読んだ本を時々読み返し、プレゼンを見返して、再度やってみる、ということを繰り返します。
この繰り返しによって、少しずつ変わります。