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汚部屋という現実を変えたい人、視野を広げたい人におすすめのTEDのプレゼンを紹介します。
タイトルは、Bananas in Heaven (天国のバナナ)。講演者は、イスラエル歴史学者、Yuval Noah Harari(ユヴァル・ノア・ハラリ)さんです。
人間のアドバンテージ
猿は「天国でバナナを食べられるよ」と言われても信じませんが、人間は、「天国で幸せに暮らせるよ」、と言われると信じることができます。
なぜなら想像力があるから。
想像力があるので、人間は大勢で協力することができるし、そのせいで、現在、動物や地球を支配している、という内容です。
長さは15分。英語ほか、数カ国後の字幕があります。日本語字幕はありません。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
難しい単語は出てこないわかりやすいプレゼンです。
たいしたことがなかった人間
7万年前、人間はたいして影響力のない動物でした。
前史時代の人間について知っておくべき、もっとも重要なことは、人間は、重要な動物ではなかったということです。
その影響力は、ホタルやクラゲ、キツツキとたいして変わりませんでした。
一方、現在、私たちは地球をコントロールしています。どうやってそんなことができるようになったのか、お話します。
個人個人は力がない
アフリカの片隅で、自分のことをやっていただけの、たいしたことのない類人猿が、どうやって、地球の覇者になったのか?
この質問に答えるとき、私たちは、個人個人がすばらしかったから、と言いたくなります。
自分には何か特別なところがあると私だって信じたい。
身体や脳が特別だから、犬、豚、チンパンジーより優秀なんだと。
しかし、個人レベルでは、私は、チンパンジーと似たようなものです。
無人島に私とチンパンジーが置かれ、サバイバルすることになったら、チンパンジーのほうが有利です。
それは私に問題があるわけではなく、皆さんでも、同じ結果になります。
チンパンジーのほうがうまくサバイバルします。
人間の強みとは?
人間の強みは大人数で、柔軟に協力できるユニークな能力をもっていることです。
こんなことができる動物は人間だけです。
社会性昆虫のハチやアリは、たくさん集まって協力できますが、柔軟性はありません。
昆虫は、何か新しいチャンスや、危険がせまったとき、一夜にして、社会的システムを変えることはできないのです。
「女王蜂を殺せ、そして、ハチの共和国を作るんだ!」
こんなことはできません。
オオカミやイルカ、チンパンジーなど、ほかの社会的動物は、もっと柔軟に協力できますが、限られた数でしかできません。
というのも、オオカミやチンパンジーはお互いによく知っていて、近い間柄でないと、協力し合えないのです。
もし私や皆さんがチンパンジーで、お互いに協力したかったら、あなたが誰なのか知る必要があります。
いいチンパンジーなのか、悪いチンパンジーなのか。信用できるのか、嘘つきなのか。相手のことをよく知らなかったら、協力できません。
数が集まると人間はネットワークを作る
ところが、人間は、チンパンジーよりずっと、柔軟に協力できます。
しかも、大人数で。特に、たくさんの他人と協力できます。
1対1では、人間はチンパンジーよりすぐれているとは言えませんが、1000人の人間と、1000匹のチンパンジーを、無人島に置けば、人間のほうが、チンパンジーより、ずっとうまくサバイバルします。
チンパンジーを10万匹集めて、野球場や、ウォールストリートに押し込めば、完全なカオスになります。
しかし、10万人の人間をウォールストリートや野球場に入れると、人間は、すばらしく洗練されたネットワークを作って協力します。
これが、人間が地球上で、優位にたっている根本的なな理由です。
知らない人に知識を伝達できる
このトークを考えてみてもわかります。会場に200人ほど入っていますが、私は、皆さんのことを知りません。
2~3人は、よく知っている人がいるでしょうが、ほとんどの人は赤の他人です。
このイベントを開催した人たちのことも知りません。1度や2度は、リハーサルかなんかで会っていますが、親しいわけではありません。
マイクやこのパソコン、今撮影しているカメラを発明した人のことはもちろん知らないし、撮影している人のことも知りません。
このトークをインターネットを使って、パプアニューギニアやニューデリー、ニューヨークで見ている人のことも知りません。
それなのに、こうした他人同士が、とても柔軟に高度な方法で集まって協力しあい、知識を世界規模で交換しているわけです。
こういうことはチンパンジーにはできません。
チンパンジーが200匹のチンパンジーを前にして、バナナや、人間や、他のことについて話すなんて、ありえませんよね。
協力はよくないものも生む
チンパンジーは、知らない人(チンパンジー)にプレゼンをしませんが、同時に、刑務所も、強制収容所も、食肉処理場も、兵器工場も持っていません。
協力は、よいことだとは限りません。
協力について考えるとき、わたしたちは、セサミストリートを思い浮かべます。
子どもたちに、お互いに協力し合うことを教えます。しかし、この世界で、人々がやってきて、今もやっているひどいことは、大人数で、柔軟に協力できる能力の結果です。
さて、人類の成功の秘密は、大人数で、柔軟に協力できる能力である、と皆さんにわかっていただけたとしましょう。
すると、「でも、どうやってそんなことができるんだろう」という質問が思い浮かぶでしょう。
想像力のパワー
ほかの動物にはできないことを人間ができているのは、想像力(イマジネーション)のおかげです。
人間は、一緒に想像した現実を作り上げることができるから、協力できるのです。
ほかの動物がコミュニケーションを取るのは、現実にあるものを説明するためだめです。
チンパンジーは、「見て、ライオンだ。逃げろ!」とか、「あそこにバナナがある。取ろう!」と伝えることができます。
人間は、現実を説明するだけでなく、新しい現実、つまりフィクションを作るために、言語を使います。
「見て、ライオンがいる!」「見て、バナナがある!」と言うだけでなく、「見て、雲の上に神さまがいる。もしきみが、彼らの言うことをきかなかったら、神さまに罰せられる」とも言うのです。
この作り話を信じていたら、あなたは、言われたとおりのことをするでしょう。
これが大きなスケールで協力できる人間の秘密です。
作り話を信じるのは人間だけ
皆が、同じ作り話を信じている限り、全員が、同じ法律やルール、規範に従います。
これは人間にしかできないことです。
チンパンジーに向かって、「もし、私の言うとおりにしたら、何が起きるか知ってるかい? 死んだあと、チンパンジーの天国に行って、地球上でよい行いをしたごほうびに、バナナをたくさんもらえるんだよ。だから、今から私の言うとおりにしなさい」と言っても、信じないし、言われたとおりに行動しません。
このフィクションを信じるのは人間だけです。
だから、人間は世界をコントロールしていて、チンパンジーは動物園や研究所に閉じ込められています。
この考えを、宗教の世界の話としてなら、受け入れることができるでしょう。
作り話を信じて、たくさんの見ず知らずの人々が集まって、大聖堂やシナゴーグ、モスクを作り、聖戦に出ます。
皆、神や、天国、地獄などに関する同じ話を信じているからです。
しかし、私が強調したいのは、人間が作り上げている他の分野でも、全く同じことが起きているということです。司法、政治、経済でも。
人権は作り話
法律の世界を例にとりましょう。今日、世界のほとんどの司法システムは、人権を信じることがベースになっています。
しかし、人権も天国や神のように、私たちが生み出して広めた作り話です。
それはとてもよくできた話で、魅力的で、信じたいと思うでしょう。しかし、物語にすぎません。現実ではないのです。
生物学的な現実ではありません。クラゲやキツツキやダチョウが何の権利も持たないように、ホモサピエンスにも権利はありません。
人間を2つに切って、中を見ると、血や心臓や肺、腎臓はあります。しかし、権利なんてどこにもありません。
権利がある惟一の場所は、人間が作って広げた作り話の中です。
国や国家もフィクション
政治でも同じことが言えます。国や国家は、人権、神、天国と同じで、物語にしかすぎません。
山は現実で、見えるし、さわれるし、匂いをかぐこともできます。しかし、イスラエルやアメリカ合衆国は単なる物語です。
とても信じたいものですが、単なるフィクションです。
アメリカ合衆国を見ることも、さわることも、匂いをかぐこともできません。
お金、それはもっとも成功した物語
もっとも成功したストーリーは、お金の話でしょう。私たちの経済の基盤の1つです。
お金とは何か?
この緑色の紙を、皆、ドル紙幣だと言います。それを食べることも、着ることもできません。価値はありません。
しかし、ストーリーテラーの達人である、大銀行や財務大臣たち、総理大臣、大統領が、とても説得力のある物語を語っています。
「見て。この緑色の紙切れが見える? これは、バナナ10本に相当するんだよ」。
この話を私は信じ、皆さんも信じ、誰もが信じています。
皆が信じているあいだは、うまくいきます。
私たちは、ひじょうに洗練された経済的協力のネットワークを作ります。その結果、先にお話ししたように、人間がこの世界を支配しているのです。
誰もがお金を信じている
お金の話は、大成功した物語で、誰もが信じている惟一のストーリーです。
全員が神を信じてはいないし、全員が人権を信じているわけでもない。全員がアメリカ合衆国を信じてもいません。
しかし、お金やドル紙幣は皆が信じています。
オサマ・ビン・ラディンですらも。
彼はアメリカの政治やアメリカの宗教、アメリカ文化を毛嫌いしていました。
しかし、アメリカドルに対しては、敵意は持っていませんでした。むしろ、アメリカドルが大好きでした。
このようにお金の物語は、これまで語られた話の中で、もっとも成功した話です。
まとめ
ほかの動物ではなく、人間がこの世界をコントロールしているのは、人間が、2つの現実を生きているからです。
ほかの動物はみな、実在する現実を生きています。川、山、木々、ライオン、ゾウなど実在するもので成っている現実です。
人間も、実在する現実を生きてはいます。私たちの現実の中には、川や木、ライオン、ゾウがあります。
しかし、この実在する現実の上に、私たちは、虚構の現実という2つ目のレイヤーを作っています。
それは、国家、お金、人権、神といった、想像の中にしかない作りごとの現実です。
驚嘆すべきことに、歴史が進むにつれて、作りごとの現実が、どんどん強力になっています。
これまで、世界でもっとも強大な力を発揮したのは、こうした、作り事の統一体です。
川や木々、ライオン、チンパンジーの生存は、今日、アメリカ合衆国やGoogle、世界銀行といった、作りごとの統一体の希望や決断にかかっています。
その実体は、私たちが共通している想像の中にしかないのです。
//// 抄訳ここまで////
補足
entity 統一体 と訳しましたが、1つの形をもっている何か、実体です。実在、存在と訳すこともあります。
今回紹介した動画は2014年に収録されたものです。
この頃、すでに、ユヴァル・ノア・ハラリさんは、いくつかの賞をとっていましたが、2015年、Sapiens: A Brief History of Humankind(サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福)という本が、世界的大ベストセラーになり、ワールドワイドにその名を知られるようになりました。
現在は知識人としてメディアにもたびたび登場しています。
サピエンス全史
まんが版もあります。
現実に関するほかのTED
マインドセット(ものの見方)を変えて人生の流れを変えよう(TED)
本当のことを話せば、ほかの人の本当の姿にふれることができる(TED)
いい、悪いと簡単に決めつけられるほど人生は単純じゃない(TED)
実際の体験とその体験の記憶の幸福度は違う:ダニエル・カーネマン(TED)
「恐怖」が教えてくれること:カレン・トンプソン・ウォーカー(TED)
信念を変えれば現実が変わる
人間は想像力と言葉を持っているから、作りごとの現実を作って、それをみんなで信じ、知らない人ともどんどん協力できる。そうやって、だんだん世界を支配するようになった。
言われてみると、そうかもしれません。
少なくとも、想像力と言葉はとても重要です。
自分の生活という現実も、たぶんにイマジネーションの影響を受けていますから、きのうの現実を変えてしまうことは、わりと簡単だと思います。
大勢の人たちと作り上げている現実はそんなに簡単には変えられないでしょう。
しかし、汚部屋という現実を、スッキリした部屋という現実に変えるのは難しくありません。
コートが捨てられない、漫画が捨てられない、書類が捨てられない。
いろいろ言うけれど、そういう余計なものがない現実を信じるようにすればいいだけです。
捨てられないのは、コートがたくさんないと生きられない現実、着ない服をたくさん持っていないと困る現実、押入れいっぱいに書類を入れておかないと安心できない現実、毎日のように服を着替えないとだめな現実を信じているからです。
信じるものを変えてみると、部屋はもっときれいになります。
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今年は新型コロナウイルスのせいで、「集まるな、社会的になるな」と言われた年でしたね。
徹底的に、(物理的には)社会的にならなかった、ロックダウンのとき、動物たちが、普段は出てこない場所まで出てきて羽を伸ばしていました。
特にインドは、サルやゾウがぞろぞろ出てきて、町を占拠し、今でも、サル問題は深刻なようです。
私も、春、朝、走っているとき、いつもより、コヨーテを見ました。
人間は協力し合わないとほかの動物に負けるんですね。
協力し合わないと何もできない。
感謝することをおすすめすると「感謝することがありません」というメールをもらいますが、人間だったら、ほかの人間(先祖を含めて)に対して、感謝することばかりです。
そういう考え方ができるようになると、心も豊かになっていくと思います。