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たったひとつのスーツケースに自分の人生のすべて詰め込んで新しい場所に行く。
そんな体験をした女性のTEDトークを紹介します。
タイトルは、What I learned from getting rid of 99% of my stuff (所持品の99%を捨てて私が学んだこと)。
講演者は、マーケッターの Eagranie Yuh(イーグラ二ー・ユー)さん。
シンプルライフを実践する上で、物理的なものを手放すことがどれほど威力を発揮するか教えてくれる内容です。
99%捨てる:TEDの説明
In 2022, Eagranie Yuh moved halfway across the world with just one suitcase–and in the process, got rid of 99% of her stuff. In this talk, she shares the unexpected lesson she learned about how deeply connected our physical stuff is to our psychological stuff.
2022年、イーグラ二ー・ユーは、スーツケースを1つだけ持って、地球の反対側へ引っ越しました。そのプロセスで彼女は99%の持ち物を捨てました。
このトークで、物理的な持ち物と心理的な持ち物の深い結びつきについて、彼女が学んだことをシェアします。
収録は2024年5月。動画の長さは14分。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
シンプルな内容なので、わかりやすいトークです。
新しい場所に行くために99%のものを捨てた
ずっと夢見てきた場所へ旅立つところを想像してください。ただし、これは一方通行の冒険で、持ち物はスーツケース1つです。それ以外は皆、置いていかねばなりません。
どんな気分になりますか?
解放感がありますか? 新しいスタートが待ち切れない? それとも、自分の人生すべてをスーツケースに入れなければならない不安を感じますか?
私は実際にこんな経験をし、所持品の99%を手放しました。その時、学んだことをお話しします。
様々な仕事をしてきた
私はずっとストーリーを語って生活してきました。今は、マーケッター、ライター、ポッドキャスターとして物語を語っています。
前はジャーナリストで、チョコレートの専門家でした。
その前は、お菓子職人、化学者、ピアノの先生でした。
仕事を変えるたびに、アイデンティティを変えてきました。職場だけでなく家でも。
皆、そうですよね? 私たちのアイデンティティは常に変化します。新しいアイデンティティを入れるスペースを作るために、古いアイデンティティを捨てなければなりません。
物理的なものと心理的なものの結びつき
ものを捨ててみて、心理的なものが、物理的なものに紐づいていることに気づきました。
心理的に止まってしまうとき、物理的なものが、私たちを引き留めていることがあります。
スーツケース1つで、地球の反対側まで引っ越したとき、このことに気づきました。
カナダからタスマニアへ
2年ほど前、私は家族と、カナダのヴァンクーバーから、タスマニアのホバートへ引っ越しました。
それぞれ、スーツケースを1つだけ持って。
ほんの少ししか持っていけません。
何を置いていくか? ほとんどすべてです。
でも、そうすると魔法が起きるんです。捨てるものを選ぶとき、前に進むためには何がいるのか、はっきりわかるからです。
TEDで、99%のものを捨てた話をすると皆に言ったら、いまだに大学の教科書を持っている人がたくさんいると知って驚きました。
教科書はずいぶん前に手放していましたが、私には古い物語が残っていました。
ジャーナリストとしての古いアイデンティティ
私は10年ほどジャーナリストをしていましたが、引っ越しを考えていたとき、1年ほど何も書いていなかったし、書く計画もありませんでした。
恋人や配偶者と別れた人は、「もう彼とは完全に終わって、吹っ切れたわ」と言いますが、実際は未練が残っているものです。
私にとってジャーナリズムがそうでした。別れたけれど、私はまだ前に進んでいなかったのです。
ものをいっぱい持っていて、それがジャーナリストというアイデンティティを手放せない理由になっていました。
たくさんあった紙を捨てた
私は紙をいっぱい持っていました。
スポーツ用品、靴、古い雑誌と別れ難いと思う人がいるでしょう。私にとっては紙でした。
何事も始めるときが一番大変だから、紙のリサイクルを始めるまでに3ヶ月かかりました。
1つ目の箱~カンファレンスで取ったメモ
2021年の1月に、1番目の箱から始めました。出席したカンファレンスでとったメモがいっぱい入った箱です。
2000年になってから私は在宅で仕事をしていました。オフィスで働いていたら違ったかもしれませんが、私はカンファレンスが大好きでした。
いろいろな人に会って、友人ができるから。
考えてみると、私はカンファレンスで取ったノートを保存して、自分がどこかに所属している気分でいたかったんです。
大学のパーカやはじめて参加したマラソンのゼッケンを持っている人っていますよね。他の人にとっては単なる「もの」、でもその人にとっては、自分がどこかに属していることを証明するお守りなんです。
最初の箱をリサイクルのビンに投げ込みました。
2つ目の箱~イベントのプログラム
2021年の2月、2つ目の箱にとりかかりました。この箱には、私が話をした講演やイベントのプログラムがびっしり入っていました。
プログラムを取っておいたのは、自分がちゃんとした人だと感じられるからでした。
とっくの昔に縁が切れた雇用主が書いた推薦状や名刺を捨てられない人がいます。他の人にとっては単なる「もの」、でもその人にとっては、自分が信用できる人だと証明するお守りなんです。
2つ目の箱も、リサイクルビンに捨てました。
棚にあった大量の紙~自分が書いた記事
2021年の3月、棚にある紙に取りかかりました。
私は、アナログ媒体に記事を書くジャーナリストだったので、記事を書くたびに、掲載された雑誌や新聞を取っておいたのです。
3月、はじめて掲載された記事を引っ張り出しました。
それは2009年に書いたもので、ホットチョコレートに関する500文字の記事です。
この記事を書いた自分のバージョンを覚えていました。
びくびくしながら編集者にコンタクトを取り、彼女が「いいわよ」と言ったとき、恐怖におびえ、記事を書いている間中吐き気がしました。
自分が偽物だとわかってしまうんじゃないかと思ったのです。
印刷されたその記事をはじめて見たとき、体中に電流が走りました。
「またやりたい」。そう思ったのを覚えています。実際そうしました。
私が記事を全部取っておいたのは、どれだけ自分が成長したかわかるからだと気づきました。
多くの人が大学の教科書を取っておくのも、同じ理由からかもしれません。他の人にとっては単なる「もの」、でもその人にとっては、自分がどれだけ前に進んだか証明するお守りなんです。
ものを捨てても大丈夫だった
ここまで来て、私は自分の古いアイデンティティを脱ぎ捨て始めました。
最初の箱は、私がどこかに属していると感じさせてくれる紙でいっぱいでした。紙を捨ててもその気持ちは残りました。
2つ目の箱に入っていた紙は、自分が信頼に足る人だと感じさせてくれていました。紙を捨てても、気持ちは変わりませんでした。
3月のこの日、棚にあった紙をすべて捨てました。2021年の3月13日の日記に、「雑誌の記事を全部捨てて、古い人生をリサイクルした」と書きました。
紙をリサイクルするのになぜ3ヶ月もかかったのか?
理由は2つあります。
まず、悲しむ時間が必要でした。
何かを10年もすると、それは自分の一部になります。それをしなくなってしまうと、ある種の喪失を感じます。
2つめは、捨てるのが怖かったから。
ジャーナリストである自分を捨てると、そのあと何が残るのかという質問と直面しなければなりません。
今の私は誰か?
答えられませんでした。
捨てるのは必要なプロセスだった
他のものもどんどん捨てて、次第に捨ててできたスペースを受け入れられるようになりました。
ここに到達するまでに3ヶ月かかりましたが、それは、私が必要としていたカタルシスだったのです。
それが必要だとは、自分では気づいていなかったのですが。
そして、ものを捨てるのは楽しいことだと気づきました。自由になります。解放感があるんです。
このあとは、勢いがつき、何か捨てるものはないかとアパート中をチェックしました。
そこにあるものがすべて必要だと感じるとがっかりしました。
このとき、すべての所持品に、自分が少しずつ入っていることに気づきました。
紙の1枚1枚、着古したTシャツ、読もうと思って読んでいない本。これらすべてと自分が見えない糸でつながっている気分でした。
ものを捨てるとき、糸を切りました。
すると、外にあるものに向かっていた自分のエネルギーが、自分の中に集まって、「今の私は誰?」という質問に答えられるようになっていきました。
捨てたら、何でもできる気がした
2022年の7月、家にある家具や家電、小物をすべて売ったり譲ったりしました。
からになったアパートを閉め、車を手放しました。
私たちは99%のものを捨てました。
もっと重要なのは、捨てたものの中に閉じ込められていた古いバージョンの私たちと向き合えたことです。
ヴァンクーバーでの最後の1週間、レンタルハウスに泊まりました。家族とスーツケースだけで。
すごく奇妙な気分でした。物語の間で宙ぶらりんになっているような。
ヴァンクーバーの章は書き終えたけど、タスマニアの章はまだ始まっていません。2つの間のスペースにいて、私はなんでも可能なんだと感じました。
古いアイデンティティを捨てよう
誰もが、海外に引っ越して、新しい場所でまた人生を始める機会なんてありませんよね。
そんなチャンスを持てた私はとても恵まれています。
重要なのは、スーツケース1つを持って、海外に引っ越すことではありません。
私が言いたいのは、私たちのアイデンティティが常に変わっているということ。
人は仕事を変え、子供をもうけ、引っ越しをします。
編み針をかぎ針に変えることもあります。マラソンは膝によくないけど、カヤックはよさそうだと感じるかもしれません。
アイデンティティの変化は、私は何をキープするべきか、何を捨てるべきかという問いかけをするチャンスです。
自分の選択が、所持品に反映されているかどうか?
ヴァンクーバーでの最終日に、タスマニアの生活に向けて、スーツケースを詰めました。
私は昔の自分をひとまとめにしたんです。
古い私の経験は、すべて私の経験ですが、私はもう昔の私ではなく、今の私です。
皆さんも、帰宅したら、スーツケース1つに所持品をまとめるところを想像してみてください。
持ち物の99%捨てたら、どんな気分になるでしょうか?
何を残して、何を捨てますか?
//// 抄訳ここまで ///
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古いものが足かせになる
私は不用品を捨てることをおすすめしていますが、それは単に部屋がきれいになるからではなく、自分の人生を棚卸しでき、足かせを取り払って自由になれるからです。
イーグラ二ーさんは、ものと自分をつなげている糸を1本1本切って捨てたら、自分のエネルギーが中に向かったと言っていますが、これは私もよく感じることです。
ものがたくさんあると視覚的ノイズになるだけでなく、エネルギーを奪われてしまいます。
特に、今の自分とはあまり関係のない古いものがいっぱいあるときは。
イーグラ二ーさんは、所持品を捨てて、過去の自分をまとめたと言っていますが、ものは捨てても、過去の体験から学んだことや、感じたことは消えません。
私たちは、常に変化しているので、古いものにばかりこだわっていると前に進めないのです。
とは言え、なかなかスーツケース1つで引っ越す機会はありませんね。
私も、スーツケース1個以上のものを持って引っ越しをしました。厳密に言うと、U-Hallで借りた一番小さいヴァンの荷台半分ぐらいのものを新居に持ち込みました。
私の場合、本が多かったんです。
読もうと思ってまだ読んでいない本が。
でも、最近はあきらめて、毎日少しずつ雑誌や本を捨てています。
やはり捨てると気分が軽くなるし、もっと大事なことに意識が向きます。
あなたも、スーツケース1つで引っ越すなら何を入れるか考えてみてください。